とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

何度やっても理科がわかるようにならない意外な理由

「うちの子、理科ができなくて…」とお嘆きの貴兄へ。

その原因は、意外なところにあるかもしれません。

 

 

 

1)「計算方法」ではなく「基本原則」がわかっているか?

 

「浮力の計算なんて簡単なのに、なんでうちの子はできないんだろう」
「中和でどちらがどれだけ余るかなんて絶対無理」
「レンズの実像の大きさなんて作図したらすぐわかるのに」

こうお嘆きのご父兄は多いのではないでしょうか。
そして「こうしたらできるって何度も教えたでしょ!」となっているかもしれませんね。

でも、待ってください。

 

浮力の「計算」をさせる前に、「力のつり合い」はわかっていますか?
止まっている物体(正確には等速運動をしている物体)に働く力は必ず釣り合っています。
水面に浮いている物体では「重力=浮力」。
ばねばかりで水中につるされた物体では「重力=浮力+上に引っ張る力」。
このことを、驚くほど多くの小6生がわかっていません。
わかっていないのに、「計算」だけしようとする。
解けるわけありませんね。

中和で酸アルカリどちらが余るか、を計算させる前に、中和とは何かわかっていますか? リトマス試験紙やBTB溶液で実験したことはありますか?

レンズの実像の「作図」をさせる前に、虫眼鏡で壁に像を映したことがありますか?
「光はまっすぐ進む」ことがわかっていますか?

 

受験のさなかにすべての実験をしろというわけではありません。
でも、「力の三原則」を知らず、すべての科学的事象をテキストの写真で見せられただけの子に理科の問題を解けというほうが無理難題なんじゃないですか?

 

ちなみに、私の授業ではどうしても浮力が解けないという子に
「すべてのチカラは釣り合っている」ことを教えただけで、2時間でほとんどの問題が解けるようになりましたよ。

理科でつまずいていたら、「もしかしたら原則がわかっていないのでは?」と疑ってみてください。


2)塾では基本原則は教えてくれない

力のつり合いが理解できていない子に、浮力の計算をさせる。
ろうそくが燃えるのを見たことがない子、木炭の実物を知らない子に「用語」を教え込む。(木ガスだの言われても、空き地で生木を燃やしているのを見たこともない子が理解できるのかな?)

レンズによる「実像」を塾の授業で見たことがある子はどれだけいるだろうか。

 

これが、塾の理科の授業です。


浮力がわからないと言われても、塾の先生は「浮力計算の方法」を何度も教えるだけです(苦笑)。
原因は、もっと根っこのところにあるのに。。。

 

おそらく、算数の先生はそれなりに大学数学もわかる講師がいるのかもしれませんが、
理科の先生は、理工学部出身の「バリバリ理系」の方が少ないんじゃないかなと推察します。本来は、バリバリ理系で、「いまその子が取り組んでいる問題(ミクロ)を、物理化学の全体系(マクロ)から俯瞰する力」こそが、理科を教えるには必要だと思うのですが、そこまでできるバリバリ理系は、普通に理系就職しているのでしょう。

 

これはかなり不幸な事象ですし、恐ろしくすら感じます。

 

講師に「マクロ」が見えていないから、子供ができない理由が実はマクロの理解にあることに気づかないのですね。
だから小手先の計算ばかり教える。

では、マクロはどこで学べるのか?

学校です。
日常生活です。

 

中受一辺倒のお子さんやご父兄は学校の勉強を馬鹿にする傾向がありますが、
「触ってみる」「やってみる」が、科学の理解の基本です。
日常生活にも、「科学」はそこら中にあります。
机の上で計算問題ばかりやっていても、「科学」は身につきません。


3)科学を真から理解させたければ「家の手伝い」「料理」をさせろ

家事、とりわけお料理は「科学」の宝庫です。
洗濯物を干させれば、実感として「蒸発」がわかる。
湿気の多い日には乾きにくい、ということから飽和水蒸気量も一発で理解できます。

 

お料理は
・溶解度
・熱の伝導
・炭化
・燃焼
・酸、アルカリ
などなど、こうしたことが実感を伴って理解できます。

お風呂掃除で重曹クエン酸を使えば、中和が実感できます。

机に何時間も座らせて「実感を伴わない理科」に取り組ませても、すぐ忘れます。

実感を伴う理解は忘れません。

一日数十分でも構わないので、いますぐ「手伝い」をさせましょう。

4)理科の講師の選び方

おそらく多くのご父兄が知らないこと。
それは、「理科専任の講師は少ない」ということです。
これは、需要と供給の関係です。
中受は、算数の比重が非常に高い。高すぎるくらい高い(笑)。
だから、算数の講師は非常に多いです。
その、算数専任の講師が、「まあ小学校理科くらいなら教えられるよ」と理科を教えているのが現状だと私は感じています。
そういう講師は、生徒が原理原則でつまずいていることがわからない。

 

見分け方としては、浮力やてこのつまずきについて尋ねた時に、いきなり計算方法を教え始めたら要注意かも。
「子供が力のつり合いをわかっているか?」に注目してくれる講師なら、大丈夫!
ほかの単元も同じです。
質問をして、すぐに「手法」「解法」を教え始める講師は、子供に「わからせる」ことはできない確率が高いと思います。
あれですね、算数で「速さがわからない」という子に、いきなり「はじき」を覚えさせるような講師ということです。

ぜひ、「マクロ」から説明できる講師を探して、その場しのぎでない本当の理科の力を手に入れましょう。