とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

記述の採点ができないなら記述問題などやめてしまえ

先般の某大手塾の塾内テスト、国語の記述採点にどうにも納得いかず、いささか過激なタイトルとなっております。


ぶっちゃけ、Sです。Sのみならず、大手塾って、もしかするとまともに記述の採点できる人間いないのかな?

 

記述の採点が「キーワードが書かれていれば配点」となっているとしか思えない現状があり、ひいては「塾の記述採点がダメダメなために、小学生の記述力がどんどんダメにされている」と危機感すら感じます。

以下、その理由を説明します。

 

 

 

1)キーワード至上主義の危うさ

Sの国語のテキストを見ると、記述の模範解答にそれぞれ傍線が引いてあり「これがあれば〇点」のように授業内では評価するようです。
バカ言っちゃいけません(苦笑&怒り)

「キーワードが書いてあれば〇点」みたいな評価をするから、小学生が「自分でも書いてる意味はよくわかってないけど、この辺拾ってつなげて書いておけば点もらえそう」という文章を書くようになるんです!(怒)

 

そのやり方ではいつまでたっても
・主語と述語の対応が正しい文章を書こうという意識

・他人にわかるように、自分の言葉で書く力
は育ちません。

 

私は常々、
・一文を短く
・「自分のわかる言葉」で書け
と口を酸っぱくして生徒に教えていますが、キーワード至上主義に洗脳された生徒たちに「わかりやすい文章」を書けるようにさせるのは並大抵の苦労ではありません。

 

キーワード至上主義は、生徒の記述力を、むしろ阻害します。正当な評価ができないならそんな出題やめるべき。

 

2)採点基準が未公表

フェアな記述採点というのは、例えば都立高の記述問題ですね。
・設問の意図にのっとって答えているか
・文章として間違っていたらそれぞれ〇点減点
など、基準がはっきりしています。

 

方や、Sの記述採点は「ここが文法的に間違っているよ」などの傍線もまったくなく、「まとめて〇点」の記載があるだけ。
あれで生徒は記述ができるようになるのでしょうか?
なるわけがありませんね。
細かく減点など指摘するとツッコミが入るからそれを避けるためにどんぶり採点にしているのかなとすら邪推します。

 

3)正しく理解しているかよりもキーワードが書いてあるかが重要???


5月のマンスリーで、担当生徒の回答で
・内容を理解しているとはとても思えないうえに、重複や、主語と述語のねじれなどが見られ文法的にもおかしいが、キーワードだけは書いてあった回答
・よく内容を理解しているとわかるが、キーワードが書いていなかった回答
がありました。
結果は、後者はなんと零点。前者は部分点がもらえていました。
のけぞりそうになりました。
Sの採点、本当に講師がやってるのかな?

 

マンスリーはオープンではありませんし、それぞれの生徒の回答をそのまま書くのは守秘義務に反しますので、似た例を考えてみることにします。ちょうど手元に渋谷教育学園幕張中学校の過去問があるのでそれを題材にしましょうか。

みくに出版の、いわゆる「銀本」の模範解答は次の通りです。

 

「日本人のように神などの絶対的な基準がないと物事を相対化することができず、何でもないものを臨在感的に把握して絶対化してしまい、あらゆる方向から拘束されてしまうこと」

 

ぶっちゃけ、そもそもを言うと、塾の模試の模範解答を含め、各種問題集の「模範解答」はおかしいです(笑
こんな文章、小6に書けますか?渋幕を受けるほどの優秀な子でも「臨在感的」って説明できるのかしら。


自分で説明できない言葉を書くな。


それは鉄則だと思うんですけどね。
この「『模範解答』を見ても記述力はまったくあがらない」点に関しては、話が長くなるので別で書くつもりです。

 

話を戻します。

要は、本文は「日本人の多くは『絶対的な神』を持たないので、『あれ?この流れおかしいな?』と思っても指摘できず『その場の空気に流される』」ってことを言ってるわけです。だったら、そんな難しい言葉使わなくていいわけです。

 

先のマンスリーの例でいうと

キーワードちりばめ回答例
「日本人は物事を相対化できず、臨在感的に把握し絶対化し、あらゆる方向から拘束すること」

こんな感じですかね(汗
主語述語がねじれた文章を書くのは存外難しく、あまり「小学生あるある珍解答」にできておらず口惜しいですが。
もし私がこの回答を採点するとしたら、「理解していない」ということで零点。
甘めに見て、「日本人は物事を相対化できず」のところはかろうじて合っているので数点あげるかな?でも、「日本人は」「拘束する」のねじれを見ると、理解しているとはいいがたいのでやっぱり零点にしたいところですね。
でも、これ、おそらく「キーワード採点」だと半分以上点がもらえてしまうと思います。要は、キーワード採点って、「生徒の文章全体の整合性=理解度」は、まったく見ていないんですよ。部分点がもらえて「しまう」って相当まずいことです。「部分点がもらえてラッキー♪」とはゆめゆめ思わないでいただきたい!

 

一方、
理解しているけどキーワード書いてない回答例
「日本人は神を信じていないため判断基準がなく、そのため周りの意見に左右されてしまうということ」

 

どうですか?私は、小6でこれが書けたら満点にしてあげたいですけどね。
「キーワードちりばめ回答」と比べてどちらが本文を深く適切に理解しているか一目瞭然ですよね。でも、おそらくこの回答は、模試ではほぼ零点にされると思います。

もっとも、これは「某塾内模試」の話であり、渋幕ほどの学校であれば正当に評価してくれるはずと信じておりますが。

 

4)「キーワード採点」の重要な弊害

いかがですか?もし自分が上記のような採点をされたら、勘違いしてしまいませんか?
キーワードちりばめ君は「やっぱりテキトーにつなげて書いておけば少しは点もらえるんだな」と誤解し、「本文と格闘すること」を軽視するようになるでしょう。
一方、理解してるけどの子は「なんでダメなんだろう?やっぱり記述は苦手だわ」となってしまうでしょう。

もうね、本当にこんなことはやめにしてもらいたい。
キーワードがあるかないかでしか採点できない者に、記述問題を出す資格などありません。

「キーワード採点じゃない、ちゃんと全文読んでいる」というのだったら、細かく添削しろ。なぜなら、塾は「合否を決める側」ではなく「記述力を伸ばす立場」なんだからさ。

 

5)「記述」の指導

記述の指導は、もっと
・深く=生徒の言いたいことを読み取り、それ自体が間違っていたら「読解」から指導しなおし
・細やかに=生徒の言いたいことが正しいなら、文法や表現力を指導
するべきなのです。

でも、集団塾にそんな時間はありません。

模試だけのことではありません。各大手塾で小6夏くらいから始まる「過去問添削」で、正直もうしあげてまともな記述添削を見たことがないと言ってよいくらいです。記述は厳しく採点すればクレーム対策になると思ってでもいるのか、文法的には間違っておらず、内容もほぼOKでもバツの嵐。
だったら、記述の指導なんかやめてしまえ。

 

6)志望校選択に際しても同様

御三家あたりは、合格最低点はおろか、算数の正答すら公表していないところも多いようですね(苦笑
おそらくクレーム対策だと思いますが、ちょっと時代錯誤かなという気がしています。
まあ、「なんでウチの子が落ちてるの!!!」とねじ込むご家庭も多いでしょうから、わからないでもないですが。

でも、たとえば鷗友などは、学校説明会で詳しく
「こういうところを見て採点しています」
と、堂々と公表しています。
志望校選択に際しては、そういう点も参考にしたほうが良いと考えています。

そもそも、記述の採点は、ひとつひとつの回答としっかり対峙し読み込めば、絶対に時間がかかります。
記述がほとんどなのに、即日or翌日に合否が決まるのだとすれば「キーワード採点」をしているのではと疑ってみてもよいかと思います。