とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

「記述問題が苦手」の意外な原因と、その克服法(1)

「うちの子、記述問題が苦手で…」とお嘆きの貴兄。

「文章が下手だから点が取れないんだよね」と悩む受験生のみなさん。

みなさんは、もしかして「記述力」の低さのせいで記述問題ができないと思っていませんか?ズバリ、それは勘違いです。

 

記述問題関連については、言いたいことが山ほどあるので分けて書こうと思います。

・原因

・トレーニング法

・「記述」に関して世間に蔓延する誤解や問題

くらいに分ければいいかな。

まず今日は、原因について。

 

1)文章力の上手下手とは関係ない

 

まずはこれ。

記述で点が取れない理由を「文章力」のせいだと考えるからいつまで経っても点が取れないんです。「記述で点が取れない」と相談に来る生徒のほとんどが、そもそも本文をちゃんと読解できていない。

要は、読解力の低さのせいなんです。

まずは読解力を上げろ。

自分で腑に落ちるまで本文と格闘して本文を「正しく」理解しろ。

本文を正しく理解さえできていれば、拙い文章でも相手には「お、読めてるな」と伝わります。読解の記述問題は、基本的には「文がうまいから加点」はない。本文を理解しているかどうかが焦点なんです。

 

後述しますが、多くの塾で「キーワードが書けていれば部分点が取れるから」という間違った指導をされ、本文がよくわかっていないのに書き始めてしまう、それが「いつまで経っても記述で点が取れない」原因です。

 

ただし、一部の中学受験で出題される「あなたの場合は~」のような『作文』や、大学受験の『小論文』は、話が別です。決して混同しないように。作文や小論文では、普段からどれだけアンテナを張って世の中を見ているか、つまり「教養」や「思考レベル」も採点対象になります。当然「構成力」「説得力」といった「文章のうまさ」が考慮されないということは考えにくいです。

 

2)「相手に伝えたい」という意識の欠如

 

そもそも、ほとんどの学生の頭からは「文章とは相手に向けて書くものだ」という意識がすっぽり抜けています。記述に限らず、試験というのは「出題者との対話」なんですよ!相手(出題者)は「落としてやろう」と思って問題を作ってはいません。「ここはわかっているかい?」と問いかけてくれているんです。だから「僕は、私は、ここまでわかっています」ということをアピールすればいいんです。わかっていないのに、小難しい単語(キーワード)をちりばめて相手を煙にまける(ごまかして部分点がもらえる)と思ったら大間違いです。出題者はそんなこざかしい考えはお見通しです。

 

相手が読んでわかるように書け。

 

そのために「客観性」を持て。

 

自分で読んでわからないことは書くな。

 

3)「模範解答」に潜む罠

 

常々、市販の問題集や塾の模試の「模範解答」って「やりすぎ」だと思ってるんですよね。いや、間違っているという意味ではなく。

あれらは

・大人が

・制限時間無視して

・おそらくダブルチェックなど複数名の力で

書いているわけです。

そりゃあ、あそこまで書ければほぼ満点もらえるでしょうけれども、非現実的すぎて、あれらを読んでも記述ができるようになるどころか「あ~、やっぱり自分には無理だ」と思うだけなんじゃないですかね?

不思議なもので、算数や数学の難問なら、解説読んで「すごいな、こう解くのか!でも、今の自分にはまだ難しいかな。試験ではここまで時間なさそうだし」と、冷静に分析できると思うんです。「これは大人が時間かけて模範解答作っているはず」と理解できる。でも、なぜか国語の記述問題の模範解答についてはそう分析できず、自己評価を下げる一方になってしまう。

これはなぜなのか、どうしたら生徒に間違った自己評価をさせなくてすむのか。

 

ズバリ、「解答例」を複数用意すればいい。

松竹梅コース(笑)。

読解力が高くて大人顔負けの文章力があればこれ、並だったらこれくらい書ければOK、苦手でも最低限このポイントが書けるといいね、こんな感じで。


たとえて言えば、大人たちが時間をかけて知恵を振り絞って書いた松コースの模範解答は「羽生くんのスケーティング」「野沢雅子さんの演技」「手塚治虫先生の漫画」なわけですよ。もちろん、それは一つの目標として生徒に見せる意味はありますけれども、同じレベルのものを書けというのは無理難題でしょう?

だから、「最終目標はこれだけど、君たちの年齢ならここまで書ければいいよ」という「到達可能なゴール」を見せてあげてほしいんですよ。大人が制限時間無視して(笑)書いたうまい文章見せつけてドヤっても意味ないんですよ(笑)。

だって、塾も問題集も、生徒のできることを増やしたいわけでしょ?ステップ踏みましょうよ。

残念ながら、私の知る限り、そういう観点で模範解答が書かれた問題集や参考書はとても少ないです。少ないですが、ないわけではありません。いくつかご紹介します。

 

大学受験ならこれ。著者が「高校三年生でも書ける回答を意識した」と明記されており、実際この模範解答を見ても「絶望」しません(笑)。東大現代文は、イメージとは裏腹に決して難解すぎる文章や悪文は出ません。かなり読みやすいです。東大志望でなくとも、トライの価値高いです、おすすめ!

 

 「読解は、どこまでイメージできるかがポイント」という、ほかの問題集とは一線を画す名著です。前半は読解講座ですが、後半に記述講座があります。そこでは、「現実の小6生がどの程度の文章を書いて難関校に受かったか」が掲載されており、「なんだこれでいいのか」と安心し実力アップすること請け合い。

 

 

 これはかなり知名度高いのではないでしょうか。模範解答が「うますぎない」点と、「あと一歩回答」「ガンバレ回答」つまり、「誤答の例」が載っているところが素晴らしいです。

 

4)採点者、すなわち先生の問題

 

残念ながら、すべての国語講師が記述を正しく採点できるわけではありません。

それは、「なぜ記述の添削をするのか」が曖昧なまま、「模範解答とどれだけズレているか」で採点せざるを得ない現場の事情があるからです。

だったら、(前回も書きましたが)記述の指導なんかやめてしまえばいいんですけどね。信念もなく、どう導くかすら考えていない講師にバツにされる生徒たちがかわいそうですよ。

 

記述の添削は

・なによりもまず、生徒が「正しく読めているか」を判断

・「読めていない」のであれば、まず読解からやり直させる

・そのうえで「生徒が言いたいことが正しく伝わるにはどう書けばいいか」の指導

でないといけないと考えています。

ここをおろそかにすると、生徒は「なぜ自分の記述がバツなのか」わからず、ただ「書くことが嫌い」になっていくだけです。

前回も書きましたが、表現が模範解答と大幅に違っていても、内容が合っていればいいんです。そのためには、講師がまず「模範解答を正しく『読解』」しなければいけません。

 

これができない講師に教わると、いつまで経っても書けるようにならないばかりか、自信をなくす一方です。記述の指導が正しくできる講師かどうかを見抜きましょう。

これまた前回も書きましたが、正直、集団塾ではここまでするのは物理的に無理だと思います。私は「国語こそマンツーマンで教わるべき」だと考えています。「国語や現代文は日本語だしなんとかなるだろ、それよりやっぱり英語、数学」と後回しにされがちですが、マンツーマンでディスカッションすると驚くほど効果がありますよ。

これは、講師としての営業ではありません(笑)。
そもそも数年先まで予定埋まってるし、このブログでは営業する気ないので。

ママ塾、パパ塾でもいいんです。

国語力を伸ばすのは「対話」だからです。

 

ついつい、明日書くつもりの克服法にも踏み込んでしまいましたが、明日はより具体的な「トレーニング方法」を書こうと思っています。