前回は、記述問題が苦手な原因を考えました。
今回は、そのトレーニング方法を考えたいと思います。
「本文が正しく読めていること」が前提です。記述で点が取れない原因が「本文を理解できていないため」な場合、まず、対話を通じて本文を正しく読むトレーニングが必須です。
1)小学生の場合~親御さんがするべきこと
・普段の会話は成立していますか?
思うに、小学生と中高生の一番の違いは「客観性があるかどうか」かもしれませんね。例外はあれど、小学生はまだまだメンタルは幼児に近いと考えたほうがいいのかもしれない。「なぜ自分の話し方では相手に通じないのか」がわからない、それどころか「自分の言葉が相手に伝わっているかどうかを気にしてすらいない」んです。
何度も書いていますが、国語というのは「コミュニケーションを学ぶ科目」だと私は考えています。相手の言いたいことを正しく理解する、そして自分の言いたいことが正しく伝わるように話す。読解&記述って、まさしくこれですよね。
国語がコミュニケーションだと考えると、それを最初に学ぶのは家庭ですよね。
・文として成り立っていない文章を書く
・問いかけに対し明後日の方向から答える
・言いたいことがまとまっていない
小学生あるあるの「ハチャメチャな文章」を書く子は、普段の会話もハチャメチャなことが多いです。
これは、正直、親御さんの責任が大きいと言わざるを得ません。
会話ですらハチャメチャなのに、記述だけはうまく書けるなんていうことはあり得ません。まず、お子さんの普段の会話を振り返ってみてください。
・一方的に「言いつけ」てばかりいませんか?
家庭での会話はコミュニケーションを学ぶ場。
生活習慣はじめ、教えなければいけないことだらけでついつい一日中指示出しをする羽目になってしまうお気持ちはわかりますが、それでも。
一方的に「言いつけ」られると、大人でも自然と「聞かない、という自衛手段」を取りませんか?(笑)
親御さんが何から何まで一方的に指示を出すと、かえって子供の「聞く力」「読解力」を奪いかねません。
親子の会話が一方通行にならないようにするだけで、子供は変化し始めます。
・「察して」あげてはいけません
これが一番難しいかもしれませんね。なぜなら、親は赤ちゃん時代からその子を育てているから。泣くしか表現方法がない時代からその子を見ていれば、たとえ子供の会話が幼児並みの「単語のみ」「二語文」でも、何が欲しいか「察して」10倍くらいの世話を焼いてしまうのが人情というもの。
でも、子供の成長を願うなら、そこはグッとこらえてください。
「暑い」と言われて「エアコンつける?お水持ってこようか?」などと過剰に世話をしちゃいけません。王様じゃないんですから(笑)。「〇〇なので〇〇してほしい」と子供がきちんと話すまで、わかっていてもわからないふりをしてください。
要求系の発語でなくとも同じです。子供が学校や塾の話をするとき、たいていはダラダラと長く、話があっちこっちに行き、登場人物が誰かすらわからないことが多いです。まじめに相手をしていると疲れてきますから、適当に聞き流してわかったふりをしてしまうことが多いのではありませんか?でも、これ、ご法度です。子供は「そういう話し方でも通じるんだ」と誤学習してしまいます。心を鬼にして、「そのハチャメチャな話し方では他人には伝わらない」ということを叩き込んでください。
「え、ごめん、わからなかったわ。もう一度最初から話してくれる?」
「誰と誰がいたの?何の時間?」
「ごめんね、その建物がどうなってたのか、わからなかったわ。ママにわかるように説明してくれない?」
「それであなたはどう思ったの?どうしたの?」
などなど。ごまかさず、わかるまで尋ねましょう。
「察して」あげすぎると、子供は幼いまま大人になってしまいます。
2)中高生の場合~本文と「格闘」せよ
小学生の場合とはうって変わって、「自分で自分を鍛えること」が不可欠になってきます。中高生ともなると「やらされる受験」ではなく、それぞれに志望校や行きたい道がはっきりしてきて、目標とのギャップで悩んでいる生徒が多いことでしょう。国語や現代文の場合、理数系科目とは違い、どう勉強していいかわからず頭を抱えているかもしれませんね。問題集をいくらやっても、伸びている気がしないし。
こういうときは、原点に戻りましょう。
にも書きましたが、5回読めばだいたいわかってきます。少なくとも、「わかる部分とわからない部分の区別」はできるようになります。そのうえで、教師や講師に尋ねる、あるいは解説を読むとはるかによく理解できます。
3)具体的にどうトレーニングしたらいいか
・アイデアをメモにする
まずは、メモを書け。
易しい言葉で、言いたいことを箇条書きにする。
もうね、なんでみんなこれやらないかな?
小学生も中学生も高校生も、果ては大人まで、いきなり文章書き始めるんですけどね。
あえて挑発的な言い方をすれば「君らは文豪ですか?」と聞きたい。問い詰めたい。私は、時々各所から原稿を頼まれることもありますが、いきなり書き始めるなんて無謀もいいところ。言いたいことを過不足なく一発で適正文字数で書こうとするから失敗するんです!
メモを書いている間に、アイデアもまとまってきます。すべてを並列的に書くより、骨格を絞りましょう。
あと、自分がわからない=説明できない言葉を使うな。
これ、東大英作文も一緒です。カッコつけた、消化不良の表現や単語は、即減点対象です。だいたい、自分で読んでわからない文章書いてても楽しくないですよね?
・メモを「文」にしてみる。
メモを書いたら、次に「文」にしてみましょう。
この時気を付けることは、「一文を長くしない」こと。
小学生のほとんどが「重文」ましてや「複文」を文法的に正しくかけません。英語で言えば「SV」が2組以上になると、たちまちへんてこりんな文章になります。断トツで多いのが「主語述語のねじれ」そして「接続助詞の誤用」「論旨の飛躍」です。
記述問題には「単文は許すまじ」なんて書いてありません。単文で、正しく言いたいことを伝えましょう。
余談ながら、大学入試に出てくるいわゆる「悪文」がなぜ悪文かというと、「頭よく見せるためにやたらと一文が長い」からですよ!この話は長くなるのでまた別途。
ついでに言うと、大人の悪文は、なんでも「~ですが」で繋げちゃうところ。「が」ってとても便利なんですけど、これ使わないほうが文章はすっきり人に読みやすくなります。私は「大人のための文章教室」では「『が』でつなげるの禁止!」にしてます(笑)。
一文が長い文章のまずいところは、「書いているうちに自分の言いたいポイントがぼやけてくる」ことなんです。まあ、日本人らしいっちゃらしいですが。
・小説の記述問題は「核となる気持ち」を真っ先に決める
嬉しい、悲しい、恥ずかしい、腹が立つ、etc
小説の記述で聞かれる「キモチ」は、突き詰めれば一言で済みます。
「たくさん書けばあたるかも?」という欲は捨ててください。百戦錬磨の採点官は絶対見抜きます。極端な話、「うれしかったから」「悲しかったから」でもいいんです。長々とこざかしい文章を書いて、それでいてポイント外しているよりよっぽどいいです。
たとえば、また手元の「みくに出版の銀本」から、人気の頌栄女子学院の模範解答を見てみましょうか。
模範解答:
自分もピアニカの授業があったのに貸してくれたうみかのあっさりした受け答えが、かえってピアニカがないまま授業を受けてきっと居づらかったであろううみかの気持ちを強く感じさせ、申し訳なく思ったから。
どうですか。そもそも、申し訳ないけれど、この文章、悪文ですよね(汗
「かえって」のおさまりがどうにも居心地悪い。
この問題でのポイントは
・責められなかったことで、よけいに申し訳なく思った
だけなんですよ。だったら、もっとわかりやすく書きましょうよ!無理に一文にまとめなくていいんですよ!
この問題だったら、メモはこんな感じかな。
・自分にピアニカを貸したために、うみかはピアニカがなくて辛い思いをしただろう
・それなのに、私を責めなかった
・だから、私はうみかに悪いことをしたとは思っていなかった
・今なら、自分がどんなにひどいことをしたかわかる
・だから、余計に申し訳ない
で、これをまとめましょう。
「うみかは、ピアニカを自分に貸したことで困ったに違いない。だが、それを自分には一言も言わなかった。そのため、自分が気軽にしでかしたことの重みが余計に強く感じられ、申し訳なくなったから」
小学6年生なら、もっと簡単でもいいですよ、最初は。
「うみかが自分を責めないことで、かえって申し訳ない気持ちになったから」
ピアニカのくだりがないので減点されるでしょうが、骨組みとしては立派なもんですよね。
4)解答欄を埋め尽くそうとするな
現時点でまともな文も書けないなら、びっしりと解答欄を埋めようとしないでください。遠回りになります。字数制限のある場合はともかく、解答欄にただ罫線が引っ張ってあるだけの場合、とりあえず字数は無視しましょう。
解答欄を埋め尽くすために、間違った余計なことを書いて全バツになることだってありえます。雉も鳴かずば撃たれまい(ちょっと違うか)。
それでも心配なら、ぜひ、武蔵中学のQ&Aを見てください!
素晴らしいです!惚れるわ、武蔵。
<以下、武蔵中学の「よくあるご質問」より>
●解答欄いっぱいに書かなくては...
十分な余裕をもって解答欄は作られています。気にする必要はないでしょう。簡潔ですぐれた答案もあります。
<引用ここまで>
武蔵に限らず、志望校の国語教師が「正しく読める」方なら、同様に考えているはずですよ。
そもそもね、「名文」っていうのは短いんですよ!最近は原稿料稼ぎと出版社の都合で小説と言えば何百ページが当たり前ですけどね、本当にうまい作家は短編がうまいんです。「これ、三分の一のページで書いたら名作だっただろうな」という小説はたくさんあります。漫画もそう。手塚治虫先生は24ページで言いたいことを全部書ききれた。そういうことです。「長いほうがいい」という宗教は今すぐ捨てましょう。
5)毎日、何かを書け
そもそも、記述の勉強のとき「だけ」書こうとするから文が書けないんです。
毎日、何かを書きましょう。
100~200字でいいです。
目についたニュース、登下校時に見かけたこと、ネタは何でもいいです。
それについて「他人が読むことを想定して」書いてみましょう。
最初は、「なんで言いたいことが書けないんだろう」ともどかしく思うかもしれない。でも、続けるうちに、どんどんコツがわかってきます。
あと、このトレーニングはアンテナを鍛えます。
「これをネタに書こう」と思わなければスルーしてしまった事象。それを深く考えるきっかけになります。さらに言うと「私、こんなにモノを考えてなかったの?」と愕然とするかもしれません。はっきり言います。「ネタ」を与えられて即座に何か思いつかないということは、それだけ「世の中を見ていない」「モノを考えていない」ということなのです。書くことは、思考を深めてくれます。
そして、恥ずかしいかもしれませんが、できればそれを先生や親、他人に読んでもらいましょう。