とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

伸びる子、伸びない子の違い(1)~小学四年生で将来が決まるのは残酷なのか?

9歳の壁という言葉はご存じの方も多いでしょう。

ドイツでは小4でざっくりとした将来のコースが決まるそうですが、9~10歳であることは偶然ではないと思います。

小4くらいで、だいたいは学力の伸びしろはわかってしまう。これは、小学生を教えたことがある方ならわかっていただける感覚だと思います。

こう書くと、我が子の中受逆転合格をあきらめられないギャンブラーな親御さんはカッとされると思いますが、そういう話ともちょっと違います。以下、自分の頭の整理のために書いてみようと思います。

これは、「子供を早々にランク付けし叩き落すため」ではありません。逆です。「無理なうえに過剰な勉強を強制して子供をつぶさないため」に我々大人はどういうところに気を付けて指導するべきか、という自戒のためのエントリーです。なにしろ、子供をつぶすのは親だけではありませんから。

 

 

1)教師が「この子は伸びる」と感じるポイント

・好奇心が強い

・好きなことに集中できる

・わからないこと、知らない言葉は質問する

・他人に通じる話し方ができる

・怠惰ではない

・能動的

・小学校の勉強は楽にわかる

・生活習慣が身についている

・身の回りのことは自分でできる

不思議に思われるでしょうが、この時点で受験的な知識がどこまであるかは関係ありません。早期入塾で良い点とってても「ここで頭打ちだろうな」という子は多いですし。学力という意味では、上記が満たされているならば、小学校の学習が理解できていれば十分です。逆に、この時点で小学校についていけてなければ黄信号です。

それよりも、好奇心があり能動的、かつ人にわかるような話し方ができるほうがよほど重要です。語彙は家庭の責任ですし、怠惰さや生活習慣はしつけですね。受け身な子は本当に伸びないです。これは生まれつきもありますが、親が先回りして世話を焼きすぎるせいで受動的になるケースも多いですね。

 

2)小4でわかるからといってそこで決めるのは残酷では?という意見について

私は、むしろ日本型のほうが子供にとっては残酷だと感じています。

運動やバレエや音楽なら、親たちは早々に「向いてなかったのね」と諦めてくれる。でも、なぜか勉強についてだけは絶対あきらめてくれない。不思議。小4~5で「分数・小数」「速さ」「比」でつまづく場合や、いつまでも幼児のような話し方で語彙が増えないのは、勉強には向いていないんです。本人も、勉強が相当苦痛なはずです。

でも、分数小数や速さなどは、「はじき」みたいな丸暗記システムで「わかってなくても答えが出せてしま」ったりするので、悲劇が終わらないんですかね。

「向いてない子」に点を取らせるために、親は塾のかけもちなど、ひたすら量を増やそうとしますが、これは間違っています。トップ層が、最後の追い込みで物量作戦に持ち込むのは必然。そうではなくて、基礎の基礎で10倍時間をかけないとわからない子に中受をさせよう、ましてや上位校を狙わせようっていうのは「鳥を泳がせよう」としているようなもの。

何度でも書きますけど、それ、ワタミのやり方なんですよ(苦笑)。
無理と言うな、できるまでやれっていう、あれです。

みなさんブラック企業は大嫌いなはずなのに、なぜか子供にはブラック企業している親御さん多いですよね。

勉強に向いてない、授業は苦痛でしかたがない子に別の道を用意してあげるのがドイツ型だと認識しています。

無責任に「やればできる」と言って無限の努力をさせる日本型のほうが、「問題先送り」で「子供に残酷」なのではないでしょうか。

3)頭脳労働は有利とは限らない

「受験」では「どの教科もできる」ほうが断然有利です。東大生なんてオールマイティの権化みたいな人ばかりです(笑)。で、このオールマイティさって仕事でどう活きるかっていうと「どこに回されてもそこそこ仕事ができる」ことですね。でも、それって簡単に替えが効くということでもあります。

ホワイトカラーの仕事は、どんどんAIにとって代わられていくでしょう。

人間にしかできない仕事って、やっぱり手作業、それも場面に応じて臨機応変に工夫できる手作業だと思います。例えば、先日家を大々的にリフォームしていただいたのですが、長いお付き合いの内装屋さんにお願いいたしました。壁紙屋さんも大工さんも、本当に腕が良くて先の先まで予定が埋まっている方たちです。一年待ってもこの方たちにお願いしたい。この先ロボットがどんなに進化しても、たとえば「火の鳥」に出てきた「ロビタ」みたいに臨機応変に注文に応じてくれるロボットは難しいんじゃないかしら。大工さんはじめ、技師の方々も、お仕事が減ることは少ないと思います。機械は「ゼロから」「大量に」作ることは得意ですが、「すでにあるもの」を調査し判断し臨機応変に対処するのは苦手ですからね。

4)受験ギャンブルの成れの果て

受験ギャンブルにはまった親は、勉強にまったく向いていない子でも大学に入れようとします。勉強に向いていないなら、早々に技術を身につけたほうが良いでしょうに。技術は若ければ若い方が身につきますし、下手に4年間大学に行ったことで「高卒でしか入れない職」につく資格を失います。勉強ができない理由が「怠惰」だった場合、4年間で何も身につかないうえに、間違ったプライドを持ってしまったりします。悲劇です。この頃になるとようやく財力と情熱が尽きてきて、やっと「うちの子は勉強には向いてなかったんだな」と気づいてくれたりしますが、それでは遅すぎると思いますね。

 

5)日本型か、ドイツ型か

私自身、偏差値30台から早慶上理、などいわゆるバクノビ生徒の経験はありますから、小4ではっきりと不可逆な線を引くのはどうかと思います。

一方で、そういう「後伸び」するタイプって、見ればわかるんですよ。その子も中学入学偏差値は30台でしたが、私は中高で伸びることを疑っていませんでした(そしたらその通りになりました)。ドイツのシステムの細かいところはよくわからないんですが、「その時点での学力点」だけで決める(つまり日本の中学入試)とは違うんじゃないかな?性格的なものや怠惰さ、こういうものを加味すれば、おおむね正しく判断できると思う。

日本のように「無限の可能性」とか嘘ついてギャンブルさせつづけて最後に放り出すよりよっぽどいいんじゃないかな。後伸びした子たちにコースを変える選択肢が十分与えられていれば、ドイツシステムは本人にとっては幸せな面も大きいと思う。