とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

伸びる子、伸びない子の違い(2)算数の伸びしろ見極めポイント

「伸びしろ」は、現在の偏差値とは関係ないです。特に中受の場合。

あの特殊な世界は、先取りしてればそれなりに点は取れます。

でも「先取り」で利益の先食いしていた子たちが5年後半あたりから地滑りしていくケース。これは「向き不向き」を見誤った結果のことが多いですね。低学年でめいっぱいやってそのレベルなわけですから、後から才能組が追い上げてきたら抜かれるのは自明の理です。ちょっと可哀そうすぎる。

 

今回この記事を書くのは「12歳時点では、努力より才能が勝つ」ことを知らない(知りたくない?)ご父兄が、ひたすら算数の演習量を増やして子供をつぶしたり数学嫌いにさせたりしているのを見ていていたたまれなくなってきたからです。後述しますが、「中高で理数に目覚める」ことは十分あるのです。12歳で無理だな、と見極めたらそれ以上深追いしないであげてほしい。そう考えたからです。

 

「数学はセンスだ」というと反発食らう上に塾に入ってもらえませんから(笑)、受験業界はおしなべて「努力でなんとかなる」と言ってますよね。もちろん、努力の側面は否めません。羽生くんだって、才能にプラスして誰よりも努力したから今があるわけです。それでも、教師経験のある人は「理数は才能」「向き不向きは確実にある」と、実はわかってますよね?

 

過去記事で「高校でリベンジだの大学でリベンジだの親が言うな」とさんざん言ってますから矛盾して聞こえるかもしれませんが、理数系は「大学受験で中学受験時より良い成績をとる」ことは十分可能です。教え子でも、中学まで数学赤点連発だったのに高校数学で理系に目覚め、理系専門大学(芝工、農工大など)に合格した子は数多くいます。大学受験数学は、一問をじっくり解く余裕があること、これまでの経験を活かせること、いろいろ理由は考えられます(これもまた別記事で書きたいと思います)。

 

今回のポイントは、「中学受験の12歳では、生まれつき数学的センスがある方が圧倒的に有利」ということです。なぜなら、12歳くらいでは、まだまだ「経験知」を有効に使えるスキルがないからです。

野球やサッカー、バスケに例えれば、少しわかりやすいかな? 小学生くらいだと「試合運び」「先を読む力」はほとんど関係ないですよね。生まれつき足が速い子、カンが良い子、これらの圧勝です。中高になってくると、頭脳プレーも重要になってきますから、運動神経が良いだけでは勝てなくなったりしてきますよね。「経験知」が才能を凌駕できる可能性はここに生まれます。

 

10~12歳で「あ、この子は中学受験算数に『間に合う』な」と感じるポイントは以下の通りです。

 

数が好き

「数にも『個性』がある」と言ってピンとくる子は理数系向きです。

「2や4や5はどんな数でも割れるから好き」という感覚がある子。割る数が3や7の倍数だと「あ~、割り切れないかも…」と、すぐわかる子。子供が約分忘れをすると親御さんが怒り狂うことが多いですが、いますぐやめましょう。その子には「数を見たら約数を考えたくなる」気持ちがないのです。12歳時点ではそれがないとキツイです。

 

偶数か奇数か、というのは学校で教わらなくとも真っ先に身につきそうな感覚なのですが、最近の小学生は驚くほどこれがないですね。偶数か奇数か尋ねると割り算の筆算をし始めたりします(汗)。これ、偏差値60ある子でもそうだったりします。

 

3や9で割り始める「前に」、それらで割り切れるかどうか考えないタイプの子は「演習量でなんとか偏差値を維持しているタイプ」です。

数学パズルが好き

個人的には、中受算数をやるのは早くても5年になってからで十分と考えています。「はじき」だののうんこみたいな解法を詰め込む前に、「数の感覚」を育てるためにパズルやっとけば十分です。おすすめは、これ。 

 最上級は、大人でも小一時間かかるほどの難問ぞろい。

夢中になって解くうちに素因数分解」と「仮説と検証」が鍛えられます。逆に言うと、この手のパズルを面白がらない子は、「今の時点では」算数が嫌いですね。無理強いは逆効果です。

「計算の工夫」が好き

算数脳の子は、計算の工夫が大好きです。

なぜなら、筆算したくないからです(笑)。
過去記事にも書きましたが、筆算なんてしょせん「一けた+一けた」「九九」を繰り返しているだけで、要は「作業」なんですよ。

 

mikoto2020.hatenablog.com

  

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数学好きな子は「作業」が嫌いなんですよね。

だから、ラクをしたくてあれこれ工夫を考えます。

私も、ミス防止にも役立つし、計算が楽だから授業では必ず「これはこう工夫すると楽に計算できるよね」と教えますが、これが響く子が実に少ない。ぼーっと聞いてる子がほとんど。頭の中では、おそらく「そういうの、面倒だからいい。筆算すればいいんだもん」と考えているのでしょう。「自分のやり方」を変えると混乱するというのもあるのでしょうね。

 

中高でその感覚が開花する生徒も多かったですが、12歳時点では「(その感覚が)あるかないか」が勝負ですね。計算の工夫をしたがらない子、何度言っても3.14でくくらない子は、中受時点ではとりあえず算数はほどほどにして、他教科で点をもぎ取ったほうが良いかもしれません。

 

分数×整数の計算の仕方で「センス」がわかる

分数×整数の問題で、整数を「〇/1」の形にしないと計算できない子は、残念ながら今の段階では「算数脳」ではありません。おそらく、分数や「〇倍」の概念がわかっておらず、教えられたやり方で答えを出しているだけです。カシオ計算機です。

言われなくても概算をする、確かめをする

これは、過去記事に書いた通りですので、リンクを貼っておきます。

 

mikoto2020.hatenablog.com

 

まとめ

これらの感覚が育っていない子は、算数の点数が低いです。「中受は算数」という信仰からか、親御さんはとにかく演習量を増やそうとします。でも、それ本当に逆効果。これらの感覚がない子にとって、算数は「まだ」苦痛でしかないです。演習量を増やしたところで、子供を数学嫌いにするだけです。

残酷なことに、12歳時点では、こと算数に関しては才能が努力を凌駕します。めちゃくちゃ時間かけて算数やってるのに、才能組には追い付けっこありませんし、「5~6年参戦組」に簡単に抜かれます。これって本人にとっては相当しんどいことだと思いませんか?

算数ができる=頭がいい、という固定観念があるからこそ我が子が算数ができないとイラついてしまうのでしょうね。総合点は同じでも、なぜか「国語で稼いで入っただけじゃん」と揶揄されることもありますしね。でも、12歳時点では「国語もセンス」ですよ?算数がぶっちぎりでできても文章読解がさっぱりな子もたくさんいます。「中高入った後で理数が伸びる」事例は山ほどあります。今の時点ではこれ以上は無理だな」と正しく見極め、負荷のかけどころ、負荷の適正量を見極めることが、子供を「理数嫌い」にしないために肝要なことだと考えています。

 

理科・国語の見極めポイントや、「中高で『化けた』ケース」については次回以降に書こうと思います。