とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

ドラマにおいて「毒親」が許されてしまう不気味さ

ドラマにはよく「毒親」が出てきますね。でも、その毒親がきちんと断罪される展開って少なくないですか?

 

コロナ禍で、以前はほとんど観なかったテレビドラマを見るようになりました。私らの仕事っていわゆるゴールデンタイムが就業時間なので(笑)、テレビドラマをリアルタイムで見ることってないんですよね。録画するほどでもないし。というか、地上波自体ほとんど観ないし。でも、コロナ禍でhuluやアマプラはじめ、ザッピングして見たら結構面白そうなので見るようになりました。
やはり仕事柄、教育関係の物が多いです。

 

するとね、まあ出るわ出るわ、毒親のオンパレード(苦笑)。

とりわけ「教育虐待」モノが多い。

でね、もうほんとびっくりなんですけど、「母親の虐待」「母親からの教育虐待」は、多くのドラマでスルーされてるんですよ!!!!スルーされるどころか、なんか最後は母親が改心したことで「全部なかったこと」「実はいい母親だった」になってるんですよ!?

 

……ありえない。

あれなの?テレビドラマの主な視聴層が専業主婦だからおもねってるの?

もうね、そういうドラマは枚挙にいとまがないんだけど、とりあえず今日は「夜行観覧車」「Nのために」「三年B組金八先生」「砂の塔」の4本について語ります。

ネタバレ満載なので、ここから先は該当作のネタバレOKな方のみお進みください。

 

****以下ネタバレ****

 

夜行観覧車」の教育虐待ママ 

 Huluのリンクが貼れないのでとりあえず原作はこちら↑。

主人公は遠藤真弓(鈴木京香)になるのかな?群像劇のような描き方ではありますが。

高級住宅地「ひばりが丘」に引っ越してきた遠藤一家。しかし、かなり背伸びをしての購入だったがゆえに、ご近所との生活レベルが違いすぎて、その格差から一家はご近所トラブルに巻き込まれていきます。本筋は、お隣の高橋家で起きた殺人事件なんですけど、遠藤家の娘・彩花(杉咲花)が中学受験に失敗し、坂道を転がり落ちるようにグレていき家庭内暴力をふるうようになったあたりの描写が凄まじい。杉咲花ちゃんの演技がすごすぎて鈴木京香が完全に喰われていたのも印象的です。で、この彩花ちゃんがグレた遠因は、母・真弓が見栄張って無理目の学校に特攻させ落ちたこと。なんですが、真弓は全く反省しておらず、むしろ被害者面してる。
もう片方の主人公一家ともいえる高橋家の母親・淳子(石田ゆり子)も実は闇を抱えています。

 

遠藤真弓と高橋淳子、2人ともひどい教育虐待をしています。淳子に至ってはしでかしたことはそれだけではないのですが、さすがにネタバレすぎますので自重します。

で、ですね。

なんか知らんけど、ラストでは2人のその罪はなかったことになってるんですよ!

「子供を愛するがゆえの行動だった」ってことで不問になるどころか、まるで良い母親のように描かれている上に、子供たちは「ママを支えよう」と必死になっちゃったりしてる。

これっていくら子供がメインターゲットじゃないドラマだとしても良くないんじゃないかなあ。もし教育虐待受けてる子供がこれ見たら「親を許せない自分は良くない子」と自分を責めることになりますからね。せめて真弓や淳子が子供たちに誠心誠意謝るシーンは入れるべきだったと思います。

 

「Nのために」 の自己中心ママ

 

ドラマ自体は、素晴らしいドラマでした!

原作を凌駕しています。

原作は、なんとも救いのない結末で、後味悪いんですよ。まあそれが湊かなえさんの持ち味ではありますが。

 

とある島の名家・杉下家の父親が、妻と子供2人を追い出し愛人を正妻にするところから、主人公・希美の苦難の人生が始まります。

もう、希美役の榮倉奈々さんの演技がみずみずしくて素晴らしくて、「下は見ない、上を向く」の言葉に何度泣かされたか。成瀬慎司くん役の窪田正孝くんも実に素晴らしい。二人が「とある罪」を共有しながらも、別々に島を出て自活していくがひょんなことで再会し、タワマンのセレブ夫婦殺人事件に巻き込まれていく。

原作にはなかった高野茂(三浦友和)の設定も絶妙でした。三浦友和さんは良い役者さんですねえ。友和さんの表情を見ていると「誠実な人生を送ってきたんだな」と感じますし、百恵ちゃんは見る目が確かだったんだなと思います。ともあれ、元警官の高野の投入で、希美と成瀬くんの過去の罪が暴かれるかもしれないという緊張感を生み出し、視聴者は二人を応援する目線で見ていますから、ドキドキハラハラ引き込まれます。

 

というわけで、素晴らしいドラマだったわけですが。

一点だけ承服しがたい部分がある。

希美の転落人生の始まりは両親の離婚でしたが、その後の母親がひどすぎる(笑)。

夫に捨てられたことを認められなくて高級化粧品や宝石を買いまくり、一方ではご飯を作ることもできない。当然、働きもしない。希美が家を出た後でようやく多少は覚醒したのかボーリング場で働きだし、再婚しちゃったりするわけですが。病に侵された希美が死ぬ前に一目、と考えたのか、二度と会う気はなかった母親のところを訪ねるんですね。その時、なんか昔から希美を愛していて大事にしていたように記憶が改ざんされてるのか、一言も希美に当時のことを謝らないんですわ。んで、希美のほうも、「やっぱり母が好き」みたいになってて、美談仕立てになっちゃってんの(苦笑)。

 

小説「永遠の仔」もそのテーマですが、虐待を受けた子がそれでも母親を求める姿は非常に切ないです。子供は何をされようと(子供のうちは)母親を求め愛します。でも、それを美談にしちゃっていいのかな。良くないんじゃないかな。DV男から離れられない女性の心理に近いものがあるんだと思うので、「それをよしとする風潮」は大人たちが正していかなきゃいけないんじゃないかな。

 

「三年B組金八先生」シーズン5の教育虐待ママとシーズン7のDVママ 

 

パラビで独占配信が始まっていたので見てみました。

www.paravi.jp

放映当時は見ていなかったのでいろいろ新発見もあり面白かったのですが、金八シリーズを語りだすととても長くなるのでそれはまた別の機会に。 

 

どうにも納得がいかないのが、シーズン5の健次郎(風間俊介)の母親・麻実(田島令子)とシーズン7の丸山しゅう(八乙女光)の母親・光代(萩尾みどり)の扱い。

シーズン5の健次郎は、優等生の皮をかぶったとんでもないラスボスで、クラスを陰で操って担任をボコらせたりしてます。これはこれで許しがたいことではありますが、家庭内ではむしろ健次郎は完全な被害者なんです。優秀だった兄は引きこもりになり、母はそんな兄だけを愛し、近所には兄は海外留学していると嘘をついている見栄っ張りでもある。クライマックスで、母親は兄を刺そうとします。それを健次郎が止めに入り、もみ合っている間に逆に母親が刺されてしまう。←超ネタバレなので白文字にしました。

でも、世間にはなぜか健次郎が犯罪者だということになり、正当防衛だったことも、そもそもの母親の精神的虐待もなかったことになり、健次郎はひたすら「ママごめんなさい」。いや、ダメでしょそれ!

前述の2作品については、ミステリだし子供対象のドラマではないからまだいいとしても。金八は子供向けでしょ???「親の罪がなかったことになる」「どんなことがあっても子供は親を愛するべき」というベクトルのドラマを、中学生向けに放映していいんですかね。

 

シーズン7の光代は、さらにひどいです。

毎日のように丸山しゅうを殴る蹴る。しゅうは完全に洗脳されていますから、そんな母親を悪いとすら思わず、ひたすら両親のために尽くします。

両親の覚せい剤所持が発覚し収監されますが、なぜか母親は許されてしゅうのもとに戻ってきてしまいます。このあたり本当にひどいシナリオです。旦那に覚せい剤打ってた上に子供にDVふるってた親がカンタンに家に戻されることなんてあるの?児相案件だろこれ。

母親が留置されている間に、しゅうは覚せい剤に手を出してしまいます。

そのあとは、「悪かったのは全部しゅうの心の弱さ」ということで話が展開していきます。しゅうが、クラスメイトや金八先生に何度も「僕が悪かったんです」と反省するセリフを言わされるんですが、このシナリオ書いたやつ出て来いと言いたい(苦笑)。

シーズン1や2の頃の金八なら、まず親に「ふざけんな!あんたたちがしっかりしなくてどうするんですか!」と一喝してたと思うんですけどね。これも「親を責めてはいけない」という時代の流れなんですかね。

 

明らかに大人が、親が原因である子供の犯罪を、子供だけが反省し謝罪する。そのうえ親を愛する描写まで美談仕立てで挟み込まれる。それを学園モノとして中学生に見せる。なんだか、大人同士が互いの罪をかばい合っている感じで気持ち悪いです。

 

砂の塔の見栄っ張りママ

 

 ツッコミどころ満載のB級ドラマなので、本気になって怒るほどのものでもないんですが。

見栄でタワマンに引っ越してきた一家が、タワマンの住民トラブルに巻き込まれたり、ラスボスの松嶋菜々子に振り回されるお話。

菅野美穂演じる高野亜紀は、夫の連れ子がいじめに合ってることにも気づかず「自分だけが大変」と思い込んで暮らしています。さらに、元カレにふらふらしたりします(笑)。やることなすこと愚かなんですが、これまたラストでは「子供を愛するけなげな母」になっちゃってました。まあ、ドラマの視聴者層は主に女性でしょうから、しょうがないのかな。それにしても、菅野美穂が棒演技で驚いたわ。昔は演技力に定評ありませんでしたっけ?