とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

講師は親のここを見ている(4)~タテマエは百害あって一利なし

中高生になると、本人が自分で、自分の言葉でコーチと話し合うことができます。

中学生だと多少は親御さんの出番もありますが、高校生ともなるとほぼゼロ。

対照的に、小学生すなわち中学受験では、本人はほとんど何もしゃべらず親が志望校はじめ、ほぼすべてを取り仕切るケースも多いです。そこでは、親とコーチの意思疎通が非常に重要になってきます。

そこでぜひともお願いしたいこと。

タテマエはやめてほしい、子供のために。

我々は、お医者さんみたいなもんです。

ホンネを隠されると、指導方針が「その子のため」になりません。

 

今回は、志望校についてのホンネとタテマエ、また「指導の厳しさ」についてのホンネとタテマエのギャップが引き起こす弊害について書きます。

 

 

1)志望校についてホンネとタテマエが違う場合

 

ホンネ<タテマエ のケース

「本音では〇〇に入ったら御の字なのに、××(偏差値ギャップ15以上)が本命というタテマエ」をコーチに言いつづけるケース。

いわゆる「駆け引き」なんだと思います。

子供に対して「〇〇でいいよ」というと緩んでしまうので、あえて高い目標を掲げる。うん、子供に対してはそれでもいいです(やりすぎは禁物ですが)。でも、個人コーチには本音を話してください。

 

個人コーチにも「あくまでウチは××希望」とウソをつくのって、ためにならないです。

もしかしたら、親御さんには「志望校を下げて伝えると、コーチが手を抜くのでは」という恐れがあるのかもしれませんが、その懸念は不要です。なぜなら、我々「教えたがりの人間」というのは、その子の資質を見極め、できる限り伸ばしてあげたいと思うのが当たり前だからです。

たとえ親御さんから「楽勝」な志望校を言われたとしても、手を抜くことはあり得ませんし、親御さんと同様、高め狙いで指導をします。

「ホンネでは狙っていないチャレンジ校」を「なにがなんでも」と虚偽を言われると、こちらとしてはホンネと受け取らざるを得ず、その子には無茶な負荷をかけるなどして「ホンネの志望校すら受からない」リスクが大いにあります。

偏差値下げたら楽勝、なんてことはないです。

受験勉強に「大は小を兼ねる」はありません。

特に中学受験の場合は、「志望校対策」がものすごく大事です。

御三家向けの勉強をしていたから中堅校はノー勉で受かるというのは幻想です。 

さらに、子供の側からしてみれば、今まで何が何でも××と言われていたのに急に〇〇と言われても不信感が増すだけですよね。2月直前の志望校下げが、偏差値を下げた割には成功しない理由もここにあります。

 

どうか、コーチを信じて、ホンネを伝えてください。

そうすれば「本来の志望校にちゃんと受かる」ためのカリキュラムをもって、お子さんに一番良い指導ができますから。

 

ホンネ>タテマエ のケース

これがまた厄介なんですよね(^^;

タテマエでは「子供が幸せになってくれればいいので」「私は〇〇でもいいので」と言いつつ、ホンネでは××(偏差値10以上ギャップのあるチャレンジ校)を夢見ている。夢見ているだけならいいんですが、心のどこかで「コーチがうまく導いて、あるいは子供が勝手に覚醒して、私の夢をかなえてくれるんじゃないか」と思っちゃってる。

これ、本当にまずいです。

親として子供と対峙して高い目標を言い渡すことから逃げ、子供が自発的に高い目標を持つように、あるいはコーチが子供をその気にさせるように願っている。ちょっと他力本願が過ぎやしませんか、自分の子供のことなのに。

こういう親御さんは、子供に「いい顔」してるんです。

あるいは、「良い親」を演じたいのかな。

こういう場合、親御さんが「人に言えないフラストレーション」を溜めてしまう。

もっと正直に、コーチには「本音では××行ってほしい、でも我が子の実力から考えると〇〇が妥当だとは思う、でもそれで良しとは子供には思ってほしくない」という本音をぜひ伝えてください。親御さんのそういう本音がわかれば、こちらにもやりようがあります。

 

2)指導の厳しさについてホンネとタテマエが違う場合

 

昨今、センター経由のどのご依頼も、ほとんどもれなく「叱らない先生」「やさしい先生」「モチベーションを上げてくれる先生」というリクエストつきです(苦笑)。
いや、気持ちはわかります。

個人コーチを頼まざるをえないお子さんの多くが、塾で伸び悩み、自己肯定感を失っています。だからこそ、最初は「褒めること」がものすごいブーストになります。

 

でも、「褒めて伸ばす」だけではいずれ限界が来ます。

 

何度も書きましたが、本人に「なにがなんでも金メダル」という強い意志がある場合は、褒め続けるだけでもいいかもしれません。なぜなら、本人が自分を律することができている、ストイックになれている、からです。この場合、金メダルを目指すアスリートと同様、本人がみずから厳しい練習をしますから、こちらは適切なコーチングをし、褒めて自信を持たせてあげることがベストです。

 

でも、個人コーチを頼むケースの多くでは、本人にはそこまでのモチベーションはないですよね。むしろ「やる気が見えない」「受験が自分ごとじゃない」ケースがほとんどです。

こういう場合、一通り褒めて自己肯定感が上がり自信がついたならば、現実を考えてシビアにならざるを得ません。

なぜならば、塾で下位クラスの子が自信をつけて「ちょいノビ」したくらいでは、志望校にはとうてい届かないからです。「褒められるからやる勉強」から「真の意味で自分のためにやる勉強」に切り替えなければならない時期が、来ます。

 

コーチ業として一番困るケースが、

・ほめて伸ばすコーチを希望

・ホンネは偏差値15以上の学校の合格を希望

ダブルスタンダードです。

 

これは、非常に難しいです。

 

どこかのタイミングで「いまの勉強の仕方じゃ足りないよ」と言わなければいけなくなります。でも、その切り替えを受け入れられず、

・あくまでも生徒には優しく

・結果はトップ

を望む親御さんが、少なくありません。

でも、それは無理です。

 

学問に限らず、スポーツでも芸術でも「ある程度のライン」までは、「楽しく」上がれます。それ以上の戦いというのは、ときとして辛く孤独なものです。どんな分野のトップ争いでも「楽しみ」はありますが、「楽しいだけでは無理なレベル」が存在します。

個人コーチに「どこまでを望むのか」は、今一度本人と親御さんがきちんと考えるべきことだと思います。

 

3)「察してくれ」はナシ

いや、もちろんある程度はお察しいたしますよ、こちとら「対人業」なので。

ホンネではこうなんだろうな、という推察はできます。

でも、「こちらが察したホンネ」をもとにカリキュラムを組んだり指導の厳しさを変えたりは、できないんです。

こちらとしては、あくまでも親御さんから言われた「志望」に従ってやらざるを得ないんです。「自分では言いたくないけどコーチが本音をうまく察して我が家にベストな指導をしてほしい」は無茶振りです(苦笑)。

お子さん本人の、親御さんの「ホンネ」はどこにあるのか。

それを、秋以降ますます「現実」と相対峙せざるを得ないこの時期に、今一度考えてほしいなと思っています。