とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

「親ガチャ」は事実なのに大人はなぜ憤るのか?

最近流行の「親ガチャ」と言う言葉ですが、この業界の人はみんな感じてたことなんじゃないかな。

 

でも、大人たち、とくに親御さんはこの流行り言葉が大嫌いみたいですね。

子供が「親ガチャ」という言葉を使う動機も場面も様々だろうに、脊髄反射でキレている大人にはちょっと待ったと言いたい。図星をさされてムッとするお気持ちはわかりますが。

 

子供はそこまで深い意味で「親ガチャ」と言う言葉を使っていない

おそらく子供がその言葉を口にするのって

1)流行りに乗ってみただけの軽口

2)ちょっと愚痴りたくなっただけ

3)ガチの毒親に苦しめられている

4)自分を棚に上げてすべて親のせいにし、努力のかけらもない

のどれかなんじゃないかなあ。

このうち、親や大人が本気で怒っていいのは(4)だけですよね。

(3)はもちろんのこと、(1)と(2)も許容範囲。だって、事実ですから。

 

DNAの親ガチャは事実

 

ちなみに、巷で言われている「親ガチャ」はどうも資産や年収のことを言っているようですが、私にはピンときませんね。

子供はそのあたりが短絡的なので、「お金があればあるほど人生イージーモード」と思っている子も多いようですが、金で才能は買えませんから。あくまで個人の人生観ですが、多額の資産を相続するより「自分ができること」が増えて行くほうが私は断然楽しいですね。それに、人間は結局死ぬまで自分の位置するバンドの中での競争から逃れられないわけで、いわゆる「金持ちには金持ちの苦労がある」んだと思いますよ。(貧困問題は別で、それこそ親ガチャという言葉で済ませるのではなく、救済が必要)

 

一方、DNAは別です。もちろん遺伝は解明されきっているわけではありませんし、すべてが遺伝のせいなどというつもりはありません、念のため。

でも、正直申しまして、「親と子供が似ても似つかない」ケースは稀です。

ガチャガチャしがちな親御さんのお子さんはやっぱりガチャガチャしてる。

なんでも他人のせいにする親御さんのお子さんはやはり他罰的。

神経質な親御さんのお子さんはやはり神経質。

これらはどちらかというと「環境遺伝」と言われるものでしょう。

一方、学力や才能も、ある程度は遺伝だなというのは否定できません。

 

つまり、生物的遺伝にしろ環境遺伝にしろ、ゲームで言えば「初期武器」はある程度親御さん次第。これは、無視できない要素だと思います。遠い昔から「蛙の子は蛙」「リンゴの実は遠くに落ちない」など、多数のことわざがありますね。

 

子供にしてみれば、「ひのきのぼう」と「かわのふく」しか与えられていないのに「お前が努力して英雄になれ!」と言われても「んな無茶な!」ですよね。

 

だから、子供や若者がちょっとした愚痴でこの言葉を使っても、スルーしてあげていいんじゃないですかね。その子らも、一方で「自分にできる努力は精一杯しなきゃいけない」ことくらいわかってますって。

 

唯一、怒っていいケース

世の中には、老若男女問わず、何もかも人のせいにしないと気が済まない人というのがいます。子供でも、います。そういう子供や若者が、できる範囲で努力しようともせず、義務も果たそうとせず、すべてを「親ガチャ」のせいにして呪詛を吐いている場合には、親は本気で怒っていいと思います。

 

実際、中学受験が過熱しすぎたせいか、「〇〇受験」を「人質」にして親を支配するモラハラ子供もときどきいます。これについてはまた今度。

 

「親ガチャ」のせいにする人は「努力の楽しさ」を知らなくてかわいそう

たしかに、この世には「努力では超えられない壁」は存在します。

勉強にしろスポーツにしろ芸術にしろ。

 

ときどき「僕は/私は〇〇になれますか?」と尋ねる子がいます。

そういう子は「なれないなら努力しない、無駄だから」と言います。

 

努力しても東大に入れないなら勉強しない。

努力しても大谷選手になれないなら時間の無駄。

努力してもトップスターになれないなら目指さない。

エトセトラエトセトラ。

 

それって「オールオアナッシング」の発想で、ちょっと短絡的だしかわいそうだなあと思います。

「自分の位置するバンド」の中での上下動は、これはまさに努力次第。

だいいち、成果があろうとなかろうと、努力してちょっとでも「できること」が増えるのって楽しくないですか?私は楽しいです。というか、人生の一番の楽しみはそれだと思っています。

どうせ努力したってタカがしれている、とうそぶく若者には、「努力そのものの楽しみ」に気づいてもらえたらなあ、と思っています。この仕事を続けている一番の動機は、それかもしれません。