とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

「発達障害は偏差値で埋めればいい!」は危険

おかげさまで、11月に新年度予約が次々と入り早くも2022年は満了になりました。

来年は無茶振りな中受案件がなく、望み通り中高校生指導に戻ったのでホッとしているところです。

 

今日は、以前からずっと引っ掛かっていたことを書きます。

 

近年、とみに増えている依頼があります。

それは「どうも発達障害っぽいけど、その分小学校低学年からサピに入れるのでサポートをお願いしたい」という案件です。

すべてお断りしています。

発達障害のお子さんの指導が嫌だからではございません。

発達障害を「偏差値で埋める」という考え方に賛同できないからです。

 

実際、診断の出ている子、グレーな子、これまで多々指導してきました。

結果はおおむね良好です。

発達障害の傾向のある生徒さんの指導は通常の3倍以上大変ですが、それだけに彼らが「脱皮」して成長するのは感激もひとしおでした。

ただ、それには条件があります。

・親御さんが、子供が発達障害の傾向があることを受容している

・あるいは、すでに診断済み

・偏差値の上昇を最優先としない

・全面的に任せていただける

こういう場合は予後が良かったです。

発達障害の傾向があったとは思えないほど成長した生徒も多くいます。

 

発達障害と言っても千差万別ですし私も独学でしかありませんが、私の受けてきたケースは大きく2つに大別されます。

・地頭は悪くないが「外界」に興味がないために語彙が著しく低く、読解力がないことで他教科もダメなパターン

・いわゆる「ケーキが三等分できない」パターン

前者は、まず「世界が閉じている=他人に興味がない」ことを自覚させることで好転することが多かったです。

後者は、地道に教えることで、分数の割り算もできなかったのに、「ルートとは何か」が理解でき人に教えられるほどになった子がいました。

 

いずれにしても、親御さんが「本人比で成長すれば良い」とお考えで、かつ私を信頼して任せてくださり、「テストの点数よりも日常生活優先」にご協力くださいました。

 

でも、実際の中学受験界隈では、こうしたケースは稀です。

「この子は人とコミュニケーションがとれない分、せめて学力はつけないと」

ならまだしも

「有名中に入ればママ友を見返せる」

「有名中→有名大に行けば自立できる(良い生活ができる)はず」

という間違った認識や歪んだコンプレックスから子供に中学受験を強要しているケースが後を絶ちません。

これはどう贔屓目に見ても教育虐待です。

 

元ビジネスマンであり部下を多く持っていた立場からはっきり申し上げますと「人と意思伝達がうまくできなくても学力で埋め合わせられる」のは非常にレアケースです。

なぜなら、偏差値で計れる学力は「企画力」ではないからです。

エジソンやスティージョブズの例を引き合いに出されることもありますが、彼らは偏差値で発達障害を埋め合わせたのではありません。たぐいまれな企画力・創造力があったから、周りを振り回し疲弊させヘタをしたら部下を潰すような真似をしても(一応)なんとかなったのです。

 

発達障害的傾向から目を背け、ごり押しで中学受験に邁進させられた子たちの中には中学についていけずに、あるいはそれまで目をそらしてきた人間関係に直面し、ドロップアウトしてフリースクールに行くケースも少なくありません。

 

そこまで極端ではなくとも、低学年から進学塾に入れてるのにまったく伸びない場合は、学力以外の部分に問題が潜んでいることが多いです。注意力散漫や、他人の話に興味がなく聞いていないケースです。診断が下りるほどの発達障害ではないけれども、塾についていけず中学受験に向いていない子たちが毎日親からドヤされ10~12歳で連日3時間以上勉強させられているのを見ると「今すぐこのジェットコースターから降りたほうがいい。本人が心身ともに成長してからの高校受験や大学受験で十分間に合う」と説得したくなります。でも、ジェットコースターですからね。渦中で降りることなど考えられなくなったご家庭はそのまま突っ走ります。

 

「二月の勝者」を手放しで認められない理由は、決して少なくない(むしろ多い)中学受験のこうした闇の部分を一切書かず、「親にとって気持ちの良いストーリー」になってきたからだなあ、と気づきました。美談のように描かれていることで、教育虐待スレスレの親御さんがあの漫画を読み自分は間違っていないと考えるリスクが増えているのを感じるのは私だけでしょうか。

 

(12/8追記)

「二月の勝者」の中で、受験勉強を頑張るのもスポ小を頑張るのも同じ、なのになぜ勉強は認めてもらえないのか、というくだりがありました。ですが、いまやスポ小や中学の部活では「根性論」「血反吐吐くまでやれ」という教え方は鳴りを潜めています。そんなことをやったら現代では炎上必至です。

でも、中学受験においては、その炎上必至な根性論が「周回遅れ」で各所で繰り広げられていますよね。某最大手塾では問題を解けないと講師が机を蹴るそうですが、それって公立の小学校や中学校であったら即炎上ですよね。(この問題は根が深いので別記事でまた書きますが)

(以上追記)

 

「苦しかったけどやって良かったよね!」などと言っていいのは本人だけです。

「二月の勝者」を子供に読ませたら、上位の子は楽しんで読むでしょうが、下位の子は「大人に都合の良いストーリー」に辟易するのではないでしょうか。