とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

算数と数学はプロに「丸投げ」すべき

数学の不得意な親御さんはもちろん、得意な親御さんも「プロ講師の境地になれない限り」、こと算数/数学については「親塾」はやめて欲しい。

 

1)算数/数学が不得意な親が「親塾」をすると

 

マルかバツかしか見ない親は多いですが、こと算数/数学にいたってはこれが顕著。

 

考え方は合っていたのに最後の最後で計算ミスをした。

これを正しく「評価」できるか。

基本的には、考え方が合っていればとりあえずそれで良しとして欲しいですが、一方で「看過できない計算ミス」というのもあります。「ありえない答え」の場合です。

算数/数学の指導というのは、ここが大事です。

その「微妙な案配」は、算数/数学が苦手な親御さんにはわかりません。

いきおい、「計算ミス断固許すまじ」「計算ミスだからいいよいいよ」の両極端になりがちですね、経験上。(「ありえない計算ミス」の場合は、根本からきちっと鍛錬する必要があります)

 

また、算数/数学は正解に至るまでに様々な「道」がありますが、失礼ながら算数/数学が苦手な親御さんは「子供の書いた道」が「自分の知ってる道」と違う、あるいは解説と違うと理解できない。

 

お子さんが基礎の基礎もわかっていないのだったら「この通りにやれ」が有効な場合もありますが、お子さん自身の中に「自分に合った解法」がある場合、混乱をきたすおそれが大きいです。

 

過去、「わが子の解き方がおかしい」と言ってきたケースの多くで、お子さんのほうがより俯瞰的な解き方ができていて、それを親が「理解できていなかっただけ」でした。

 

正直言っていいですか?

設問に対して少なくとも解法を3つ以上提示できないのであれば、算数/数学の文章題は教えないほうがいいです。

 

2)算数/数学が得意な親が「親塾」をすると

 

これは、ケースバイケースですね。

一流のプロ講師並みに

・「待つ」ことができ

・俯瞰した目を持って

いれば、稀にではありますが親塾がプラスになることもあります。

(過去、一例だけ経験しました)

 

ですが、多くの場合は

・「なんでこれがわからないの?」とイライラしてしまう

・一足飛び=子供の理解度を超えて「最適な解き方」を教え込んでしまう

という弊害が大きいです。

 

小6・中3・高3といった「仕上げ」の時期では「あり」かもしれません。

ですが、子供自身が「理解へのステップ」で試行錯誤しているときにこれをやられるとキツイです。

 

たとえば、中学受験の速さの問題は、最終的には「比」でガンガン解いたほうが速いです。でも、理解の途中にいる子供にとっては「具体」じゃないとわからない。太郎君と次郎君の分速を出して、それで初めて理解できるわけです。算数が得意な親御さんは、そこをすっ飛ばして「最適解」に行きがち。

 

場合の数なんかもそうですね。

難関国立中などでは「樹形図」を大事にしていて、安易にCだのPだの教えません。なぜなら、CだのPだのだけでは解けない問題が、東大はじめ超難関校では出るからです。「理解のステップ」を大事にしているからこそ、国立中では無意味な先取りはさせないということです。

怖い話ですが、多くの中受では「3つ選ぶ」までは出ますが「4つ選ぶ」は出ないので、「2つなら2で割る」「3つなら6で割る」を機械的にできても、「4つ選ぶ」がまったくできない塾生が多いですね。つまり、なぜ2で割るか、6で割るかわかっていないわけです。いったい、有名塾ではどういう教え方してるんだろう…。

 

算数/数学得意な親御さんは、

・イライラしない

・子供の「理解の段階」を理解する(そして待てる)

・数2/B(できれば数3)まで理解し、問題を多角的に説明できる

自信があるときのみ、親塾をしてください。

 

3)じゃあ、親は何をすればいいのか

・生活の中で「数の感覚」を教えて欲しい

おつかいに行かせる。おやつやおかずを「分けさせる」。料理を手伝わせる。

こういう「数の感覚」こそ、ご家庭で養うべき素養です。

「偶数か奇数か」を尋ねると「2で割る筆算」を始める子がいます(汗

これが、偏差値が50前後の子でもそうだというのが恐ろしいです。

偶数か奇数かが「ちょっと見」でわからないというのは、「算数」と「生活」が乖離していて「勉強は机に向かってするもの」だという刷り込みから来ている気がします。

「2で割れるか」「3で割れるか」というのは、たしかに「ルール」で教えることもできますが、それ以前に「生活感覚」として身についていて欲しいです。

「数の感覚」「実感」がない子には、5%の食塩水と10%の食塩水を混ぜたら15%という子が多いです。偏差値が50前後あっても、です。

「実感」を育てるのは、家庭ならではです(個人コーチにもできますが、それにはとても時間がかかります。できるなら家で培ってほしい)

 

・お小遣い制にして、「こづかい帳」をつけさせる

以前も書きましたが、最近は「おこづかい制」の子がほとんどいないようですね。

おこづかいがいくら、○○を買ったら残りはいくら。

ジャンプを月4回買ったらお小遣いで足りるのかどうか。

こういう感覚がない(のに塾のテストだけは解ける)のは、正直怖いです。

・計算練習のマネージメント

計算が速い→算数/数学ができる

とは言えませんが

計算が遅い/ミスが多すぎ→算数/数学が苦手になりがち

は多くの場合当てはまります。

つまり、十分条件ではないが必要条件ということですね。

 

計算ミスにも「まあしょうがないミス」と「ありえないミス」があります。

「ありえないミス」をする子というのは、(ドラゴン桜2の受け売りですが)「数の暗黙知」が育ってないです。

計算練習は、授業でコツを教えることはできますが塾も家庭教師も毎日見張ってやらせることはできません。「毎日の鍛錬」こそ親御さんの出番です。

 

できれば、計算ミスの「ヤバさの度合い」が見極められるといいです。

算数/数学苦手な親御さんには負荷が高いかもしれませんが。

たとえば答えが4ケタの計算で、10の位や100の位が間違っていても大問題ではありませんが、1000の位が間違っているのは看過できない、という具合に。

 

・一緒にパズルをする

たびたびご紹介していますが、宮本算数パズルはすごいです。

「これは何の倍数か」を考えるようになり、さらに「仮説と検証」の鍛錬になります。それも、楽しみながら。

こういうパズルを一緒にやることで、子供は「数の暗黙知」が鍛えられますし、親御さんも「自分が実は算数/数学をわかっていないという事実」がわかるかもしれません。

 

・文章題では「検算」をさせる

子供の出した答えが違う場合、多くの親御さんは最初からやり直させます。

その前に、「その答えが当てはまるかやってごらん」と示唆してほしいです。

子供は「あれ?おかしい」となって、自分でやり直し始めます。

 

・どうやって解いたか説明させる

「なるほど。じゃあ、どうしてそう思ったかパパ/ママに教えてくれる?」という問いかけ。「なるほど」と言った瞬間に子供は自分が不正解なことを知るでしょうが(笑)、それでも頭ごなしに「最初からやり直せ」というよりも、自分の考えをトレースして間違いに気づくことが後々プラスに働きます。

 

4)それでも「親塾」がしたいなら

一度、ご自分で解いてみてください。

塾の模試、志望校の過去問。

制限時間ではご自身が満点を取れないならば、制限時間で満点が取れるまで勉強してください。

というか、はっきり申し上げます。

制限時間の半分で全問正解できないのであれば「教える」のは無理です。

(この辺が、学生バイト講師とプロ講師の違いでもあります)

「自分が解ける」のと、「生徒(わが子)を解けるようにできる」のは、求められるスキルに雲泥の差があります。

「解法」を教えても、生徒は解けるようにはなりません。