とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

子供はなぜ親の言うことを聞かないのか

「ミコト先生の言うことなら聞くんです。私も同じことを言っているのに…」

この仕事をしていて、毎回言われる言葉です。

親御さんの身になってみれば、同じことを言っても家庭教師のいうことは素直に聞くのに自分の言うことはバカにするとなるとモヤモヤされるのはわかります。

子供が親の言うことを信じないのはなぜなんでしょうか。

 

ぶっちゃけます。

親は「今現在」勉強が得意じゃないから、です。

若者というのは「今すごい人」しか尊敬しません。

親御さんが「今すごい人」じゃないケースはいくつかにわけられますので分析し、対処法を考えてみようと思います。

 

1)親が「今も昔も教科学習が苦手だった」ケース

 

スポーツや仕事で例えるとわかりやすいですね。

「○○ができない人」からそれについて「指示」をされたらムッとしませんか?

たいした営業成績も上げていない上司からダメ出しをされたら。

料理のヘタな姑から味付けにあれこれ言われたら。

演技のヘタな先輩俳優から「演技とは」などと説教されたら。

腹立ちますね(笑)。

 

もちろん、自分はできなくともコーチングはうまい人はたくさんいます。

ですから、指導を受ける側が「なんだよ、コーチも現役時代たいしたことなかったくせに」と考えるのは浅はかではあるのですが、それが若者というものです。

 

そして、今と昔では受験の難易度がまったく違います。

それは「競技参加人数」が桁違いだからです。

少子化だから今の受験は簡単?

全然違います。

私立中や大学受験は、今の親御さんが同じ年齢だったころには「できる子」だけが闘うフィールドでした。でも今や、2人に1人が大学に行く時代。私が現役の頃は、公立トップ校にいればさほど努力しなくてもMARCHには入れました。いまやそうでもありません。

そして問題の難易度はうなぎのぼり。

「塾」が「対策」を練ってしまうので、いたちごっこで難易度を上げるしかなくなっているんですね。(まあ、これについては最近の中学受験はちょっとおかしいと思っていますが。)

そういう、どんどん厳しくなる状況下で、親が「なぜこんな問題も解けないんだ」と言ったら心の中で馬鹿にされ反発されるのは当たり前。

このケースの対処法は難しいですが、改善策を考えてみると。

「今の状況」を親がちゃんと体感する

親は、昔の感覚で受験市場を見ているので、「明治なんて簡単だろう」とかそういう誤った認識で子供を叱責してしまいます。

ご自分が、同じ制限時間で同じ問題を解いてみることで、今の受験市場がどれほど厳しくなっているかを体感することは必須だと思います。

中学受験の場合は、中堅校であれば親の目から見たら「簡単」に思えるでしょう。

だから、多くの親はすぐ「なんでこれが解けないんだ!」と怒り出します。

でも、ぜひ「12歳の自分がこれを解けたか?」と、自分に問うて欲しいです。

さらに言えば、「12歳の自分が毎日塾に2~3時間行き、家でも勉強を強いられる」ことに耐えられたかどうかも。

・子供に対して素直に接する

自分が今子供たちに求められている速度で問題処理できないとしたら。

お子さんに「素直に」それを言ってみたらどうでしょうか。

以前も書きましたが、私の母は高卒です(時代的に仕方がない)。

母は、いつも「お母さんには全然わからないや。ミコトはすごい」と言い続けてくれました。これが、自分にできないことを子供に強要する母だったとしたら、私は東大に行っていないと思います。

 

2)親が「昔はできた」けど今は…のケース

こちらの方が、根は深い問題かもしれません。

繰り返しますが、子供は「今それができる人」しか尊敬しません。

そして、もし親御さんが「勉強は〇〇卒という肩書を手に入れるため」であり、「今現在は勉強をしていない」のであれば、それは子供のやる気を削ぐ一番の要因です。

「学歴」を手に入れるために必死で勉強しても、その「学歴」を持っている自分の親が、今は学問に興味がないとしたら。

子供はどう感じるでしょう。

ああ、「社会に出たら必要がないこと」を今自分はやらされているんだな。

そう感じる子は少なくない。

この辺も、若者の浅はかさではあるのですが。

若い頃に「教科の学習」を頑張ったことが、たとえそれを直接活かす仕事につかなかったとしても、そういうノウハウが社会に出てから活きる。

これは、多くの大人が賛同してくれると思います。

でも、子供の身になってみたらどうでしょうか?

「有名大学合格までは必要なスキル」が、大人になったら不要だと思えてしまうのではないでしょうか。

これは、教育・学習というものが「やり遂げたあとに自分がどう変わるか」が「始める前」には見えないという、すなわち「やってみないとその価値がわからない」というたぐいのものであるからなんですね。

(この辺は、内田樹先生の「下流志向」に詳しいです)

 

この対処法は、やっぱり

親が「学問」を今でも楽しいと思っていることを見せる

しかないんじゃないでしょうか。

子供にとっては「良い就職」「良い生活」のために「あとでいらなくなる勉強」を12年間するのって、馬鹿馬鹿しく見えてもしかたがないんじゃないでしょうか?

教科の勉強ではなくとも。

親が、家で何かの勉強をしているところを見せるのはとても大事です。

その意味では、リモートワークが広がってきたのは良いことですね。

あと、親が「読書する姿」を見せましょう。

これは必須。

親がスマホばかり見て「本」を読んでいないのに子供にいくら解いても無理です。

というか、逆に言うと、今ご自分に読書習慣がないんだとしたら、子供に読書がどうこう、読解力がどうこう言う資格はないです。

スマホで読んでる?

馬鹿言っちゃいけません。

スマホでぱっと読める文字数と、本を一冊読むときの文字数は比べ物になりません。

自分は本を読みもしないのに子供に強いるのはやめましょう。

 

子供がなんで親の言うことを聞かないか。

それは、親が「今自分がやっていないこと」を子供に強いるからです。

私は、母のおかげで無類の本好きに育ちました。

それは、母が本を読んでいる姿をしょっちゅう目にしていたからです。

もちろん、昔頑張ったからこそ今は家ではのんびりしていても大丈夫、それはわかります。でも、子供も「外(学校&塾)」では精一杯やってきています。子供は自宅でもそれ以上を求められます。子供にそれを求めるなら、親も家で「学ぶ姿を子供に見せる時間」が必要だと私は思います。

親がみずから「学ぶ姿」を見せていれば、子供も自然とそうなります。

子供は、なんだかんだ言って親の真似をしたいからです。