とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

ワンオペ受験のほうが「成功」するかも

世間の逆ですが、別にいわゆる「逆張り」を狙っているわけではありません(笑)。

自分自身の経験、並びに同業の友人知人から聞いた話などから

「実は『ワンオペ受験』のほうがより成功するケースも多い」と感じたので、「うちはワンオペ受験だからきっとうまくいかない」と悲観的な親御さんがご安心していただければと思い、この記事を書きます。

また、両親が受験に絡んでくるのは中受がほとんどとはいえ、中には高校生に対しても中受時のような対応をしているご家庭が少なくありません。今回の記事は、メインは中受向けの話ですが受験全般の話でもあります。

 

1)言葉の定義

そもそも「成功」とは何なのか。

そもそも「ワンオペ受験」とは何なのか。

そこをはっきりさせたうえで、さまざまなケーススタディを考えてみます。

 

この記事における「成功」とは

・「本人が」行きたい学校のどれかに合格する

・子供が潰れることなく

・ご家族もまた不幸感を覚えず

・受験経験が、受験後の成長に寄与する

ことです。

ですので、

「開成や東大に受かること『だけ』が成功」

「今より偏差値が10以上高い学校に受かること『だけ』が成功」

だとお考えになる方はブラウザバックされたほうが良いかと思います。

 

「ワンオペ受験」については、

父母のどちらかだけが中受に熱心で、もう一人は(たとえ意見が違っても)邪魔せず見守る、というケースを想定しています。

 

2)ケーススタディと成功の可能性および講師の困り度

父母ともに熱心&父母の意見が違う(成功率:☆ 講師の困り度:★★★★★)

一番成功率が低く、講師もMax困るパターンです。

2人とも受験に熱心なのに、父母の考える「理想の進路」「理想の人生」が違う。

このパターンでは、自学への付き添い方について両親の間でバトルが起きたり、お互いに相手のことを陰で馬鹿にしたりします。多くの場合、家庭教師に対してそれぞれが「夫はこう言ってるけど実は」「妻はこう言ってるけど実は」という話を持ち込みます。私は家裁の調停員じゃないぞ(苦笑)。

 

両親の人生観が違うこと自体は、私はむしろ健全だと考えます。

なぜなら、子供の視野が広がるからです。

でも、人生観が違う2人の人間からそれぞれの「理想の学校」「理想の生き方」をギュウギュウと押し付けられる子供はどちらを見てよいのかわからないし、結局両方のやり方を言われるがままに取り入れて虻蜂取らずになるケースが多いですね。

船頭多くして船山に登る というやつです。

 

この手のご両親は、講師に対してウソをつくことが多いのも特徴です。

「私は子供の行きたいところに行ければいいと思ってるんですが、パパが…」というお母さんの多くが、フタを開けてみれば実は高偏差値校への合格を悲願していたのは母親のほうで、お父さんはむしろ子供の特性を考えて志望校を考えていた(あるいはその逆)。このパターン滅茶苦茶多いです。

こういう御家庭は、ご両親の間で情報が共有されていません。

それぞれが、講師と「ナイショで」コンタクトをとりたがります。

そういう齟齬を飯のタネにしている三流講師(失礼)もいますが、まともな講師にとっては本当に困ります。誰が本当のことを言っているのかわからないからです。

バトルをするなら他人を巻き込まず、家庭内でまずバトルをしましょう。

 

父母ともに熱心&父母の意見は同じ(成功率&講師の困り度:子供による)

これは本当にケースバイケースですので、もう少し細分化してみます。

・父母ともに熱心で意見も同じ、だから常にどちらも受験から頭が離れない

最悪に近いケースです。

一人っ子だと子供が潰れて受験どころの話ではなくなるケースも珍しくありません。

逆の立場になってみてください。

子供にとって親というのは、受験に関係なく「生殺与奪を握っている相手」「逆らえない相手」です。その親が、二人とも「〇〇に入らなければ」と無言のプレッシャーをかけてきたり、常にどちらかが横に張り付いて勉強をすることになったり、塾でのマンスリーテストはもちろん小テストの結果までチェックされていたら。子供には逃げ場がなくなり、マシンになるしかなくなります。

同じような環境で「仕事を」「家事を」したいですか?

イヤですよね?

巷で言う「両親が受験に対して同じスタンスにならないと」というのは、二人そろって子供を追い込めという話では全然ありません。

そして、両親そろって子供を追い込んだからと言って難関校に受かるわけではありません。むしろ逆です。

 

・父母ともに熱心で意見も同じ、だが適度に手を放している

ご両親ともに熱心だけれど、だからといって常に子供を見張ったりテストのたびに二人そろって一喜一憂したりしない。相手は自分より経験の少ない子供/若者なんだから、ある程度は見て見ぬふりをする。

そういう環境であれば(子供は敏感ですから両親の「期待」は重荷でしょうが)、子供はつぶれることなく前を向いて努力できると思います。

片方が熱心&もう一人は見守る態度(成功率:☆☆☆☆☆ 講師の困り度 ゼロ)

おそらく、これが最強(註:個人の感想です)。

人生観や受験への価値観は両親で共通していても、熱心でない方の親はあえて距離をとり「どちらでもいい」という態度。パートナーが熱心になること自体を嫌がっているわけではない。一歩引いて見守る。邪魔はしない。

これがなぜ最強かと言うと、子供が家でリラックスできるからです。

子供自身が受験に積極的なら「熱心に勉強をサポートしてくれるほうの親」を嫌がることはないでしょう。そして、息抜きや相談をしたいときには「受験から一歩引いている親」のほうにくるでしょう。ご自分が子供の身になってみれば、ベストな環境だと感じられるのではないでしょうか。

スポーツや芸術で大成した方を見ても、このケース(片方が熱心、もう片方はサポートはするけど口出しはしない)が多いと感じます。

 

片方が熱心&もう一人は無関心(成功率:☆☆☆☆☆ 講師の困り度 ★)

おそらく、俗に言う「ワンオペ受験」とはこの状態のことではないですかね?

自分ひとりが子供の将来を案じてキリキリしているのに相方は理解してくれない。

受験勉強のサポート(プリント整理・自学のチェックなど)をするのは自分だけで相方は知らん顔。

これ、当事者から見ると「夫/妻は何もしない!自分だけが苦労している!ふざけんな!」となるでしょう。

でも、子供の側から見たら逆の世界が見えてくると思いますよ。

何度も書きますが、本来は羽を休める場所であるべき家庭が、両親ともに受験に熱心になりすぎていつでも二人とも自分の動向を見張っているとしたら、子供の精神は追い詰められるだけです。

子供自身が「受験して私立に行きたい」と思っているのであれば、「無関心」なほうの親御さんに逃げっぱなしになることはありません。だって「家庭内のコーチ」は熱心なほうの親なんですから。

両親がともに「熱心」になるあまり、2人して子供を「見張る」ことになったら。

物理的には勉強時間を増やすことはできると思います(子供は親に逆らえないですからね)。ブラック企業で常に誰かが見張ってる状況と同じですね。

それが「成功」に繋がるとは思えません。

 

つまり、一般に言われる「ワンオペ受験」は、熱心なほうの親御さんからしたら「自分だけが大変」と思われるでしょうが、子供の立場に立ってみるとほぼ最高の環境だということです。「両親で追いこんで〇〇に入れる」ことを「成功」だと考えるからワンオペ受験が不利に思えてしまうだけで、トータルで見たらむしろ有利だと私は思います。

実際、私の教え子でも結局「成功」したのはこういう御家庭の子でした。

片方が熱心&もう一人が妨害する(成功率:子供による 講師の困り度★)

「二月の勝者」の武田くんの家のような感じですかね。

ご両親の人生観がまったく違うために、片方が「中受で良い学校に入らないと人生終わる」と思っていても、もう片方は「人生はなんとかなる」と思っているパターン。

自力で人生切り開いてきた自負のある方が、パートナーが受験でキリキリしていると「人生で大事なことはそれじゃない」と『人生観勝負』になるケース。

「二月の勝者」では、「中受は不要と考える夫を説得しろ」という流れになっていましたが、以前も書いたように私はそれが正しいとは思えません。

長い人生、どちらが良いかは終わってみないとわからない。

「二月の勝者」の武田くん父は「わかった、じゃあ金は出す、あとは任せるわ」つまり上で書いたパターンになったので良かったですが、これがもし武田くん父が下手に「目覚めて」しまってギリギリと見張る親になったとしたら予後は悪かったと予想します。

片方が「妨害」してくる場合、子供に受験への思いがあればそれはスルーするでしょうし、もしその「妨害」に乗っかるならその子は受験に向いていないというだけの話。