とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

東工大と京大の愚策

ちょっと前の話になりますが

東工大と京大が相次いで「女子枠」を作りましたね。

 

正直なところ、愚策としか思えませんね。

 

1)面接では「本当の意欲」は測れない

面接で「理科・工学への関心興味」を測る?

バカ言っちゃいけません(笑

たしかに、「面接」は、『ある程度』有効。

実際に切った張ったのビジネスの最前線にいる人間には、ある程度、見抜ける。

それでも、「あんな奴だとは思わなかった」が3割くらい起きるのが「面接」。

短時間なら、人は人を騙せる。

ましてや、さ。

東工大も京大も、その「面接」だれがやるの?(笑

そういう「利益のためなら平気で人を騙せる人間が存在する現場」を経験していない教授たちだよね?

あくまで個人の感想ですが、わが母校東大の教授たちも「ピュア」すぎて、学生の「演技」を見抜けるような人はそう多くはなかった記憶がありますね。

(医学部の教授選などトップオブトップになると、ビジネス界よりもエグいという話も聞きますので、教授がすべて世間知らずだというつもりはありませんが)

 

「意欲のあるふり」をするのは存外簡単ですが、私は、本当に意欲があれば、とっくに努力して「二次試験」を突破できる力をつけているのが当たり前だと考えます。

 

真に理学・工学を愛する(がゆえに寡黙で損をする)人間より「面接美人」が選ばれるようなことがないよう、面接という手段を選ぶならば、面接官たちも民間大企業の人事に教えを乞うていただきたいなあ。

 

2)「興味関心(好み)」の性差を無視するのは不自然

東工大の「女子枠」は「学院(学部+院)の6年」とのことなので、あくまで個人の感覚ではあるが、おそらく東工大の目論見は頓挫する気がしている。

なぜなら「東工大ブランド」が二次試験ナシで手に入るとしても、大学入学時点で「6年間大学に通う」ことをそれと引き換えにできるか?という疑問があり、いかに東工大ブランドをチラつかせても、それで志望者が激増するとは到底思えないということである。

 

それはそれとして、東工大も京大も「アホか?」と感じるのは。

そもそも、「ロボット・建築・電車etcという『無機物・機械』を好きな女子は総数としては圧倒的に男子より少ないという点」を無視していることだ。

 

「女らしく」「男らしく」がガチで色濃く存在した昭和ならいざしらず、現代の初等教育でそれをやったら炎上必至。ランドセルの色も自由になり、中受親を中心に、少なくとも東京都心では男児女児の教育におけるジェンダーの押し付けは感じない世の中だ。

だが、それでも「好み」の差は歴然だ。

たとえば、我が子を「鉄オタにしよう」と考える親は少ないと思う。

それでも、「鉄オタ」はほとんど男子だ。

列車だけではない、車、飛行機、エレベーター、時計、エトセトラ。

要は「メカ」に目を輝かせ、夢中になるのは圧倒的に(なぜか)男子ばかり。

これは、たとえば漫画などの世界でも如実である。

男子はガンダム、ヤマト、といったアニメの「メカ」に夢中になり、模写もすればプラモデルも作る。少女漫画家が「メカと建物は男性アシに頼るしかない」という話もよく聞く。

誤解しないでいただきたいのだが、もちろん、「メカを愛してメカを描けるから男の方が凄い」などというつもりはまったくない。そこに、優劣はない。「好みの差」があるだけである。逆に、女子は「表情」を非常によく観察しているし、表情や複雑で微妙な人間関係を描くのに長けている。

 

更に誤解してほしくないのだが、これはあくまでも「全体としての傾向」であって、私のような「外れ値」ももちろん存在する(笑)。私は生物学上は女だが、昭和の面倒くさいことこのうえなかった女子の人間関係や噂話にはまったく興味がなく、時計を分解したり酸アルカリで色水作って実験しているほうがよほど好きで、心配した母親が「明星」「ヘアカタログ」とかを買ってきたがまったく興味を示さなかった(笑)。

生物学的性による「らしさの押し付け」は、もちろんあるべきではない。

しかし、それは「全体としての傾向を無視する」こととイコールではない。

表立って言うと炎上するから先生方も口をつぐんでいるのだと思うが、初等教育に携わっていて、この「全体としての傾向」に気づかない人は少なくないのではないだろうか?

 

私は、「メカや宇宙が大好きな女子」の「受け皿」は、もちろん増えて欲しいと思っている(自分もそれで苦労したしね)。

でも、だとするならば。

東工大や京大が、「そういう女子」をもっと受け入れたい、と真に思ってくれているならば。

二次試験の廃止や易化は、むしろ「能力と意欲がある女子」を愚弄するものだと思う。

能力と意欲がある女子は、「下駄を履かされたい(ひいきされたい)」なんて微塵も思っていない。されたら侮辱だと感じる。

物理が好きで、メカが好きで、飛行機設計したかったり、自動車設計したかったり、宇宙の真の姿を知りたい暴きたいと考えたり、そういう人間は、男女関係なく自分の能力を磨いてフェアに評価してほしいと考えている。

京大理学部の入試サンプルは、ありゃあなんですか?女子を馬鹿にしてるんですか?

 

「女子に手心を加える」ことをすると、あなた方が欲しい「実力のある女子」は、むしろあなた方を忌避しますよ、たぶん。

 

3)「新しい視点」って?(笑)だったら「男女ともに」二次試験を廃止しろ

東工大の「女子枠」設置の言い分は、というと。

「従来の常識にとらわれずに新たなことに積極的にチャレンジし、社会を身近なところから変えてくれるような女子学生に入学してもらうことを強く希望している」

「多様性の促進については女子学生の比率増大に焦点を置いているため、女子学生限定以外の総合型選抜は実施しない」

 

バブル時代かよ(笑)

流行ったんだよね~、バブル時代に「女性ならではの視点で」って。

デザインとかさ、リベラルアーツの世界なら、それもありかもしれない。

でもね。

理学・工学って、積み重ねだから。

もちろん、理学は「それまでの常識を疑う」ことで進歩してきた。

ガリレオしかり、ダーウィンしかり。

でもね、彼らは「理学の基礎」がなかったわけでは、決してない。

「従来の理学」をしっかり学んだうえで「でも、こうじゃないかな?」と考えた。

今現在だって、「これまでの常識」を疑って、あるいは「こんなことができたらいいな」と夢想した「男子」たちが発明をし、新しいものを作っている。

くどいけど、男女の優劣を言いたいわけでは、もちろんありません。

「女子でなければいけない、そのために女子の二次試験を免除してでも女子を入れる」ことに、どういう根拠があるんでしょうか?

「女子力」を過大評価して小保方を生み出したことを、もう忘れたんでしょうか?

 

オリジナリティだの「新しい視点」だの、ものすごく勘違いされている。

基礎を学んだからこそ、「新しい発想」ができるんですよ。

たしかに、私もここで再々「中受の闇」と語っているように「既存のモノ」を真似することしかできない人は、多いです。しかしそれは、「何も知らないほうが新しい発想ができる」という漫画チックな夢物語とはイコールではない。藤井くんが強いのはなぜですか?将棋を「知らない」からじゃないです。ありとあらゆるセオリーを知り尽くしたからこそ、「新しい手」が打てるんです。

基礎がわかっていない人間の「思い付き」って、「奇襲」でしかないことが多いです。

 

「セオリーをやりつくした学生同士の0.1点の勝負になるのがおかしい」と思うなら、安易に女子枠を作るのではなく、たとえば「この場で問題を作って自分で解け」というような入試にしたらいかがですか?(採点に2か月くらいかかりそうですけどね)

あるいは、受験予備校に「研究」されつくしていない「新しい問題」を、毎年頑張って教授陣が作れば良いだけではないですか?

 

「既存の問題を知らないほうが『新しい視点』がある」というなら、なぜそれが女子限定でなければいけないのか、まったく理解できません。

「基礎は学んでないけど意欲だけはありそう」な学生を、男女問わず面接で選んだらいいじゃないですか(笑)。

 

4)女子枠云々以前に、理系職の待遇を、国が変えろ

文系理系議論は、また別の機会にするとして(非常に長くなりそうなので)。

個人的には、「真剣に研究している」限りにおいて、文系理系どちらが良いというつもりは、もちろんありません。

しかしながら。

実態として、「学生時代真剣に研究をしてきた人間」よりも「有名大学の文学部を出て口先でうまいこと乗り切る」ほうが「コスパが良い」という風潮が、長らくあったのは事実(マスコミなんてその典型ですね。新聞社なんて、ノーベル賞学者にまともな質問もできない人間しかいない)

ITで日本は米国に逆転不可能なほど水を空けられましたが、結局これって「理系職に行く人間は、薄給でも、功績が認められなくても、自分が好きだから行く」ことに任せていたという、まあいわば「やりがい詐欺」だったからですわ。

 

日本のジャーナリスト(笑)に理学を正しく評価できる人間が皆無なのがもう悲しくてしょうがないんですが、たとえばね、フェルマーの最終定理の証明にものすごく寄与したのは志村五郎先生と谷山豊先生なんですけどね、この価値を正しく理解して報道したマスコミ、ありました?ないですよ。彼らはカミオカンデのときも「それが何の役に立つんですか?」とか聞いちゃう有様なんで。

ついでに言うと、ウケ狙いで芸能人や社会学者(笑)が「三角関数なんて実生活で全然使わない」とか言うのも大嫌いですね。三角関数がなければ、あなた方が大好きなスマホも生まれてませんが?

 

まあ、なんだ。

つまり、この国の物理工学地学生物学数学を、本気で進化させたいんだったら。

イージーな女子枠を作る、んではなく。

「理系はカッコいい」「理系は儲かる」という国にしていかなきゃいけないんだよ。

だって、ニンゲンにも生物にもまったく興味ない子たちが、なぜこぞって医学部を目指してるのかって言ったら「医者は儲かる」から、なんだから。

(個人的には、そういう子を山ほど見てきて医療不信になってますが(笑))

 

民間企業でも、研究畑の人の重用を頑張ってほしいけど、やっぱり、ここは国が「工学部はいいぜ!」という方向に、してほしいね。