とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

「二月の勝者」のウソ(1)~中学受験を「課金ゲー」と考える危険~

仕事柄、受験モノや学園モノの漫画やドラマはよく見る。

ドラゴン桜」は殿堂入りだろうが、今連載中となると中受関係者なら「二月の勝者」は多くの人が読んでいるのではないだろうか。

 

作者の方はとても受験事情をよく調べておいでだと思うし、どのキャラクターもよく練られていて愛情持てる(除く:主人公(?)の佐倉先生。個人的に「無能な働き者」は受験において最大に害だと思ってる)。

 

とても面白い良い作品だと思うが、いくつか気になる点もある。

賛同できないのは、2点。

1)塾通いを頑張る=サッカーチームで頑張る、という考え

2)中受は「課金ゲー」という考え

 

1)塾に通うのとサッカークラブに通うのと何が違うの?という考え

これは、塾に通う花恋親子にクラスメイトの親が「大変ねえ」と話しかけたら「お宅の子もサッカーチームで芽が出るために親子そろって必死ですよね?それと同じですよ」と切り返したエピソード。

うん、まあ、その子自身が勉強好きでしかたなくて小学校の勉強がヌルくて塾の勉強が楽しくて通ってるなら、当てはまるかもしれないな(花恋の場合は確かに当てはまる)。けど、塾通いの子の多くはやりたくないけどやってる。そこは、スポ小に通う子と全然違うよね

また、これは以前にも書いたけど。

「学力がそのまま生きる仕事」って、研究者になるか、それこそ受験業界で生きるしかないよ?

スポ小に必死な親子って、「うまく行けばJリーガーに」とか思ってるわけじゃん。

スポーツや芸術の世界では、「子供の頃に頑張ったことが『そのまま』活きる道」がある。それこそ狭き門だけどさ。

一方、必死に塾に通わせてる親のほとんどが、学者になってほしいとは思ってないよね? 学歴つけていい仕事についてほしいと思ってるよね? でも、学力=仕事力ではない。

だからそこはやはりイコールではないし、切り返しとしては一見かっこいいけど違うと感じた。

 

2)中受は「課金ゲー」という考え。

これは絶対違う。

たしかに、東大合格者数は公立校<私立校にはなっている。

でもこれは、原因と結果が逆だと思う。

公立高からでも東大行けるような子たちが私立を選択するようになった結果であって、私立中に行かないと東大行けないわけではない。

私の教え子でも「公立中→都立高→難関大学」はたくさんいる。

 

「課金」したらよりよい結果になった、と言えるのは、「普通に過ごしていたらその素質を見過ごされていたかもしれない子が、金をかけて塾に行かせたら開花した」ていうケースくらいじゃないかな。でも、そういう子は「金がなくて高校進学断念」くらいの特殊なケースじゃない限り、普通に公立中学高校でも頭角を現して難関大に受かっていく。

 

要は、程度問題。

「課金」することで、「そのまま」より少し良い中学に入る(かもしれない)くらいだったら、子供は壊れない。

でも、重課金」して、めいっぱい親ブースト塾ブースト家庭教師ブーストつけてギリギリ入れた中学で、入った後に平均より上位に行ける可能性は低い。

本人が「6年間ドベでも〇〇に入れればいい」と熱望しているならそれもありかもしれないけれど、「6年間ドベ」って、子供の心を壊す。

鶏口となるも牛後となるなかれ、ってやつですね。

みなさん、目当ての中学の進学実績でまず見るところは難関大だと思いますが、同時にボリューム層や下位の子たちがどこに進学したかも見ておくほうがいいと思います。

たぶんそういう子たちは何もわからない時期に課金されて実力不相応なところに進学した結果だと思うので。

まあ、作中で「わが子に課金して何が悪い!」と言っていたのは一人のキャラであって作者の考えではないと思いますが、難関中学入学はプラチナチケットでもなんでもないので、その意味でちょっとあのセリフは危険かなと思う。