とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

「特攻」する親

中受にしろ大受にしろ「特攻」と言われる受験が悪いわけではありません。

本人がそれを望むならば。

特に、大学受験はもう本人が自分で決めるべきですしね。

でも、世の中には「子供に特攻させる親」が少なからず存在します。

今回は、その特徴や弊害について書いてみます。

 

1)「特攻受験」させる親の特徴と志望校選び

特攻させる親の一番の特徴は「偏差値しか見ていない」点です。

偏差値が良ければ良い学校だと考えている。それは明らかに間違いなのに。

模試の志望校入力欄を無駄にする

模試の志望校記入欄に、中受なら2月1日午前の学校がズラッと6校並ぶ。

これ、小5までならかまいません。その頃の志望校判定なんてほとんど無意味ですから。また、大学受験も、国公立以外は受験日かぶらないのでかまいません。

でも、小6の夏からは、現実的な戦略を考えていかなければなりません。

なのに、偏差値順に上から6校。当然、ほとんど20パーセント未満判定になります。

子供が絶望するだけで、無意味です。

 

実力相応校を一切調べていない

中受はマストではありませんし、公立中という受け皿もあります。

「受けたい学校を受けて、ダメなら公立」と割り切っているならいいですが、「私立中には行きたい」ならば、実力相応校や安全圏の学校は、遅くとも小6の春ごろからきちんと調べておくべきです。

特攻させる親は、秋冬まで「特攻リスト」以外の学校には目もくれていませんが、秋冬に慌てて目標を下げると親子ともども後ろ向きな受験になります。特に子供は「自分は頭が悪いからここにしかいけないんだ」となりがちです。

受験で一番大事なのは、「ここに行きたい!」と思えることです。

特攻する親御さんに何度「幅広く説明会や学校見学に行っておいてくださいね」と言っても聞く耳持っていただけません。

正直なところ、三度勧めても見学にすら行かない親御さんについては、もうこちらとしてできることはありませんね。特攻全落ちするんだろうな、とこちらにはわかっていますし、実際毎年そうなりますので忸怩たる思いです。

もし、このブログを読んでいる親御さんで、塾や個別コーチから「〇〇も見ておいてはいかがでしょうか」と言われてる方がいらしたら、それはオブラートにくるんだうえで「そこが相応校」と言われているわけですので、馬鹿にしないで一度は見ておいて欲しいです。秋になってからでは遅いです。

特攻校以外調べない心理とは

これは推測でしかありませんが、チャレンジ校以外調べようともしない心理とは、「神風頼みの旧日本軍心理」ではないかと思います。

以前も書いたように、入試とは上から順の徒競走でしかありません。資格試験とは違います。「勝負」ですから、負けることもあります。

勝負に臨むとき、「負けたらどうするか」を考えないのはきわめて危険です。

スポーツのように、勝負がすべてで負けたらそれまで、ならかまいません。

なぜなら、甲子園やオリンピックは、それこそがゴールだからです。

でも、受験は通過点でしかなく「そのあと」があるのに、負けた時のシミュレーションをしていないのは怖すぎる。

特攻親たちには、シミュレーションをすること自体「逃げ」に思えてしまうのでしょうが、それこそ太平洋戦争における上層部の思考停止とそっくりではないですか?

「負けた時のシミュレーション」は、「逃げ」ではなく「備え」ですよ。

バクノビに期待しすぎ

たしかに、精神年齢が低い小学生の場合、小6秋どころか冬に「覚醒」してバクノビするケースもあります。

ただ、それはあくまでも「可能性」です。

覚醒が中学受験に間に合うかもしれないし、間に合わないかもしれない。

それは神のみぞ知る、です。

親たるもの、そんな不確定な「神風」に期待するのではなく、銃後の構えをしておくべきなのではないでしょうか?

 

2)特攻親の弊害

後ろ向きの受験になる

後伸び期待の「無策の高望み」をしていた親子が、小6の秋冬にどうにもならず志望校を下げるケースも多いです。学校見学にも行っていませんし、「そこに行きたいから受ける」受験ではありません。

この場合、子供は当然「親から志望校を変えられた」という押し付けられた受験となりますし、肝心の親も、そこに受かっても嬉しくはない。

追い込みの時期はたしかに3か月程度ですが、短いようで長いです。

「行きたくもない学校」のために3か月間頑張れますか?


中受の場合、子供がずっと引きずることになる

土壇場で志望校を下げた場合、子供の中には「どうせここにしか行けなかった」という思いが残ります。

そもそもの「特攻志望」が親からの押し付けであった場合は、子供の方は実は内心で「ここが自分の相応校」と思えますから、意外と切り替えて中高を楽しめる場合もあります。

でも、特攻親に洗脳されて「〇〇しかない」と思っていた子が「やっぱりお前には無理だから××を受けろ」と言われたら、それだけで相当傷つきます。

とても前向きに受験には望めませんし、たとえ受かったとしても「ダメ校に進んだんだよな、自分は」と感じてしまいます。特攻親が志望校を下げる場合、「ここが良いからここにしろ」ではなく、親から「やむなし」オーラが漏れ出ています。こういうケースで、高校になっても「俺は/私は中受に失敗しましたから(苦笑)」と言う高校生が多くてつらくなります。

相応校や安全校の対策がおそろかになる結果「全落ち」

一番怖いのはこれです。

特攻親は、偏差値でしか考えていませんから「偏差値下げれば受かるはず」と思い込んでいます。

受験をなめるな。

特攻親が持ち偏差値より10も20も高い御三家準御三家を夢見ていた間に「相応校」や「安全校」を第一志望にしていた親子は、そこを目指して不断の努力をしています。

高校受験や大学受験ならば、ある程度「偏差値下げればOK」な部分はあります。

それは、出題形式や傾向の差はあれど、偏差値に合格率がほぼ比例しているからです。これは、中受とは比較にならないほど「全国区での勝負」だからだと思います。過去問研究をしなくても、偏差値を下げれば受かります(私も、赤本は東大しかやってません)。また、本人のメンタルも成長していますから「志望校下げたからやる気がなくなる」ということは少ないです。自分で自分をわかっているからです。

 

でも、中受は違います。

附属中(早稲田系除く)は「偏差値は高いけれど入試は簡単」な学校がある一方で、頌栄のように非常にクセのある問題を出す学校もあります。

中受は、学力に加えて何よりも「過去問研究」「そこに行きたいという意志」がモノをいいます。

学校説明会に何度来ていたかをカウントしている学校もありますし、そこまでしなくても説明会だけの情報(〇〇を出題します、とか)を教えてくれる学校もあります。

 

「どこでも受かる子」なら、過去問すらやらずに受かるでしょう。

でも、「御三家/準御三家を『目指していた』」ことは、「御三家/準御三家に受かる力がある」こととは、もちろんイコールではありません。

この誤解が起きるのが、中受の怖いところです。

高め狙いをしていた親は、狙ってただけなのに、なぜか自分の子はその実力があると勘違いしています。だから「偏差値下げれば受かる」と誤解します。

 

志望校を変えるなら、ゼロスタートの気持ちでその学校に真摯な気持ちで臨まなければなりません。

でも、できない。

特攻親子が志望校を下げても(本人にとっては)まさかの「全落ち」するのは不思議でもなんでもありません。

3)それでもバクノビを期待するなら

中受なら2月1日午前、大学受験なら国公立前期、これは本人が一番チャレンジしたいところに「特攻」させてもいいでしょう。高校受験とは違い、受け皿があるわけですからね。

ただし、本人がそれを特攻だと自覚しており、それがダメだった場合を受け入れられる場合です。親子そろって「神風頼み」はいただけません。

2月1日に特攻させるなら、そのほかの受験校は、親が細心の注意を払って戦略を練ってほしい。大学受験は、まあどっちでもいいです(浪人絶対無理な場合を除く)。

なぜなら、2月1日午前校が「特攻」の場合、高確率で落ちるからです。

「そのあとをどうするか」を、子供のメンタルも含めて絶対に親はシミュレーションしておくべき。その「備え」がないなら、特攻をさせる資格はありません。

 

おまけ:小4~5の親御さんへ

小4~5の親御さんも、シミュレーションをしていて欲しい。

まだ時間があるだけに「バクノビ神風」の可能性にすがりたいのはわかります。

実際、その可能性は、確立としては(低いですけど)あります。

でも、はっきり言います。

小6でバクノビする子というのは

・精神年齢が低かったのがようやく小6で追い付いた子

・それまで本気出してなかった子

です。

低学年、あるいは小4からガチでやらせてきてビミョウな感じなら、「現時点では」そこが上限です。子供の伸びる時期は、千差万別です。小6には「間に合わない」ことも多いです。そういう子が中高で覚醒することもあります。

バクノビ神風頼みではなく、

・成長期が中受に間に合わなかったらどうするか

のシミュレーションは、ぜひしておいていただきたいと思います。