とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

「サピは復習主義」?騙されています(^^;

サピックスは復習主義。だからテキストを事前配布しない。

うん、それは、サピがTAPから上位層を全部引き抜き、「御三家用授業」だけをやってこれた時代なら通用しただけの話。

 

何度も書いてますが、「『初めて出会う概念』をその場で理解できる子」ってどれくらいいるんですかね。アルファの子たちは、おそらく大丈夫でしょう。でも、そのほかの子は?

 

突然「比」や「速さ」を教えられ、自分の中で落とし込む時間も与えられず、いきなり問題を解けと言われる。

サピに限らず、私は中受塾のこうした教え方は、一部の「一を聞いて十を知る」タイプの子たち以外にとっては弊害以外の何物でもない、やめてもらいたいと思っています。

 

中受勢の親御さんがが馬鹿にする「公立小の教え方」こそ、子供に「思索の時間」を与えてくれるのです。

 

サピの「比」の教え方に、私は愕然としました。

比は非常に重要な概念で、(名目上)代数が使えない中受の世界では、算数の問題はほぼすべて比で解けると言っても過言ではないです。

でも、小学生低中学年にとっては「比べる」ということはまだまだ「アキラくんはサトシくんより10センチ高い」というように、「差」です。

「比べる=何倍か」という概念は、次元の違う考え方です。

その、次元が変わるという大事な「比」の授業が、なんと「比とはなんたるか」を短時間ですっ飛ばして、すぐ問題を解かせている。

 

それでいいのか?

 

たとえば、小学校ならこういう授業になるでしょう。

「ケーキを一つ作るのに、小麦粉300グラムと牛乳100グラムが必要です。

でも、私はケーキが二つ食べたいです。材料はどうしたらいいでしょうか」

みたいな話を先生がして、子供たちが我先にと手を挙げ、塾で知ってる子は「小麦粉600グラムと牛乳200グラムです(当たり前だろ、ヘヘン)」とどや顔で答えると思います。でも、先生がわざと「え~?なんで?小麦粉を600にしたらいいじゃない。なんで牛乳まで増やさないといけないの?」と聞いたときに、論理的に答えられる子はどれだけいるでしょうか。そこで、喧々諤々、議論が始まります。

「賢い」大人から見たら、「なんて回り道な授業だ。時間の無駄だ」と思うかもしれません。でも、こうした時間が、小学生には必要なんです。

この問題を、一時間使って「話し合った」結果、子供たちは「比」を理解します。

 

「合同」「相似」など、さらに難しい概念では、公教育はさらに時間をかけてくれます。実物を使って、「拡大・縮小とはどういうことか」を一時間かけて教えてくれます。そのうえで、やっと数値計算に入るわけです。

 

でも、進学塾には「理解のための時間」はありません。

速さ、分数の掛け算割り算、図形の合同、相似、エトセトラ。

「なんでそうなるの?」を考える時間が、塾にはありません。

すぐ「方法」を教わって、その通りに解ければOK。

私は、それが学問だとはとうてい思えません。

 

アルファの子たちは別です。

新しい概念に触れた瞬間に自分の頭で考えはじめ、小手先のテクニックではない「原理」をつかんで帰ってくるからです。

サピックスが、アルファレベルの子しか入塾させない間はそれで良かったでしょう。

でも、拡大路線を取り始めた時に、「一を聞いて十を知ることができない子」のために、もっと真剣に考えてほしかったです。

 

サピのテキストは、アルファの子なら予習は要りません。

 

そのレベルでないなら、「小学校の先生が教えるように、ていねいに」新しい概念を「予習」しておかないと、「理解」がないままカリキュラムが進んでいきます。非常に怖いことです。

「原理」「面白さ」を知らないまま、問題をこなしていくことになります。

 

サピに限りませんが、進学塾というのは「カリキュラムについてこれない子」を引き上げるつもりは毛頭ありません。なぜなら、「ついてこれない子」は「実績」にならないからです。トップ層が開成や桜蔭に入って「数字」を出してくれればそれでいいんです。偏差値35の子が40になるようにという指導はしません。

何度でも書きますが、それをしてくれるのは「学校」です。

「補習」をしてくれるのが、良い証拠です。

「補習」をしてくれる塾は一部にありますが、少なくともサピはやっていません。

 

それでも、サピがいいなら。

復習主義などという「アルファの子向けのウソ」に惑わされず、予習をするべきです。

ただ、この「予習」が要注意です。

進学塾と同様なやり方では無意味です。

「新しい概念」について「小学校で教えるように」「ゆっくりと」「子供に試行錯誤させる」のが、「正しい予習」です。