始まりましたねえ、ドラマ。
念のため書いておきますが、あの作品を貶したいわけではございません。
楽しく、時に涙しながら読んでおります。
ただ、やはりいろいろウソがございまして、まあ漫画ですからそこに目くじら立てる気はないのですが「あれを本気にする親」がどうも増えているなあ、それは危険だなあという感覚がございまして。
とりあえず、過去記事はこちら。
漫画やドラマの影響はとても大きいですよね。
W杯フランスチームの選手が「僕はキャプテン翼を読んでサッカーやろうと思ったんだ!」と言っていたとか。「スラムダンク」連載中は各中高のバスケ部が入部テストでセレクションをせざるを得ないほど人気になったとか。「ドクターX」見て医者目指したとか。「弱虫ペダル」でロードバイクがバカ売れしたとか。
いいんですよ、ほんとそれは。
だって「本人が」影響されて目指してるんだから。
子供たちもいずれ、自分にはオーバーヘッドシュートは打てないとか、秘打・白鳥の湖はあり得ない、とか。失敗しない医者はいないとか「いたしません」が通用する医局などないとか。ケイデンスを増やせば万事解決はウソだとか。「自分で」わかっていくことでしょう。
でも、「『親が』漫画やドラマを本気にして子供を潰す可能性が高いウソ」は、たいへん危険です。
いかん、また前置きが長くなりましたね。
ドラマ第1話で、中受を辞めさせようとした三浦くんの親に向かって黒木が「サッカーやっててプロになれる確率より、有名中学に入る確率の方が断然高い」と言って翻意させました。
あの論理自体は、かの有名な「ドラゴン桜」で桜木が矢島・水野にかましたハッタリですし、特に新しい欺瞞でもありません。
なぜ欺瞞かというと「プロサッカー選手」という「ゴール」と、「入口でしかない有名中学入学」を比べているからですね。
そういえば、ここが「ドラゴン桜」と「二月の勝者」の違いですね。「二月の勝者」のほうが「インフレ」してますね(笑)。ちなみに、ドラゴン桜では「甲子園『出場』」と「東大合格」を比べていました。これなら、まあわかるかな。どちらも「入口」ですからね。
(12/5追記:さらに、ドラゴン桜の水野と矢島は甲子園を目指していたわけでもなんでもないですね。サッカー選手を目指している子に「プロにはなれない」というのとは全然違いますね。おそらく作者の高瀬さんはドラゴン桜をヒントにあのエピソードを書いたんだと思いますが、前提が全然違うことには気づいていただきたかったなあ)
さて、スポーツにしろ芸術にしろ、たしかに「スター」はとてつもない狭き門です。
でも、プロになれなくても、ある程度卓越した技術を身に着けていれば、十分「その業界」で食っていけます。
それは、勉強もまったく一緒。
プロサッカー選手に比肩する「学業のプロ」って誰ですかね?
それは「大学教授」じゃないんですか?
さらに、大谷選手くらいの大スターとなると、比肩するべきはノーベル賞学者でしょ。
それらを比べたら、やっぱり比率は似たようなもんですよ。
「学問で食っていけない」人間や「もともと学問には興味がなく学歴が欲しかっただけ」という人間は、外に出ていきます。「学問のスター」は大学教授やさかなクンさんや著書が売れるレベルの学者、まあ一握りですわ。
一方の、プロでスターになれないスポーツ選手や芸術関係者がどうやって「食っていく」かっていうと、それはバッティングピッチャーだったり、柔道の投げられ役だったり、スタジオミュージシャンだったりするわけです。一番大きな受け皿はコーチ業です。この辺も、学業優秀者と変わりないですね。
ある程度「自分の業界の裾野」が広ければ、技術があれば食うには困りません。
どんなジャンルだって、極めれば引く手あまたですよ。
前にも書きましたが、例えば内装屋さんや大工さんでも、腕が良ければ「指名」がきます。(私の家の直しも、いつも指名でお願いしてます)
第一話の黒木の大いなる欺瞞。
それは、プロサッカー選手という「ゴール」と、有名中学入学と言う「入口」を比べて煙にまいたこと。
中受ギョーカイに溢れる「甘言」です。
長い目で見たらですね。
たとえプロにはなれなくても、「自分で『無理だ』と悟るまで本気で何かを目指した」という経験は、一生涯チカラになります。
ああして早々にプロという夢を諦めさせて、それで開成や東大つまりトップを目指させるならわかりますが、それで目指させるものが「有名中」ってちょっとショボすぎるし詐欺にもほどがある。
「ドラゴン桜」のそのセリフに関しては、後々、生徒から「詐欺だよな(笑)」としっかり断罪されてますし、あれ読んで「ウチの子も東大に!」と妄信する高校生親もいないでしょう。その頃には、親にも我が子の実力が見えてきてますから。
「ドラゴン桜」の罪があるとすれば、
にも書きましたが「進学校に憧れる二流三流高の教師」があれを信じたことですね。でも、高校生ともなれば、自我も芽生え「大人の欺瞞」にも気づけますからまだ救いがある。
私は、連載開始時、「二月の勝者」は「中学受験の闇」を描いてくれるのだと期待していました。黒木の数々の詐欺台詞はまさに欺瞞のオンパレードでしたから。
でも、最近の流れを見ると「いい話」に方向転換したみたいですね(^^;
全体が美談になるとすると、黒木の偽悪的なあれらのセリフも「真実」ととらえられてしまう。それはちょっと怖いですね。
中受ギョーカイは闇だらけ。
今、私立中高も受験業界も高受から中受にシフトしているのは、
ぶっちゃけ「小学生の親の方が騙しやすい」から
だと思っています。
中3くらいになると、だいたい我が子の実力や行く末も見えてきて、甘い言葉で「あなたのお子さんも有名高や東大に入れますよ!」と言われても簡単には騙されません。何より、子供自身が現実的になってきています。
でも、小学生は、まだまだ「なんとかなる」と思わせる余地があるんですね。
これまた何度も書いていてくどいですが(汗)、現在の偏差値がどうだろうと、子供自身が「〇〇に入りたい!」と熱望しているなら好きなだけやらせればいいです。それは、スポ小で頑張ったり、声優学校行ったり、漫画家目指して一日中漫画描いてるのとなんら変わりありません。対象が勉強というだけ。
でも、勉強が好きじゃない&向いてない子に「公立中は地獄!」「お金かければ有名中に!」と騙すのはやばいんじゃないですかねえ。
だって、「有名中合格」は、プラチナチケットでもなんでもないですから。
偏差値で学校の良しあしはもちろん語れません。
でも、サピや四谷や日能研に入塾する親御さんって、最初から「〇〇校(偏差値35~40)が第一志望」なんですかね。違うと思うんですよね。黒木のいうような甘言に騙されて辞めるにやめられず小6まできて「それでもクソみたいな公立中よりマシ!」と思うことにしてるんじゃないかな。
小6のこの時期、さすがに気が付いて撤退しようとする親御さんもいます。
当然、塾は全力で止めますね。
でも、塾側は内心では「偏差値38のあそこに入れればいい」と思ってますよ。
漫画に「親が」騙されることのないように願っております…。
今興味があるのは
「公立中はクソ!」
「高校受験はクソ!」
を全国ネットでやるかどうかだな(←人が悪い)。
たぶんやらないと思うけど。