とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

「東大リベンジャーズ」と「浪人回避大全」~学歴は金メダルなのか(2)

前回の記事で触れた「浪人回避大全」と「東大リベンジャーズ」の2巻を読み終えたので、その感想的なもの。

この著者の濱井正吾さん、どうとらえるか迷う(^^;

 

このブログでも再々言っているように、多少年齢が違っても「あることができるようになることの価値」に年齢は関係ない、と個人的には思っている。

それが顕著なのが中受で、御三家や渋谷幕張あるいは準御三家などの「レベチ」な入試問題は別として、ほとんどの中学受験の入試問題は、いざ中学生になってしまえば「なんでこれが当時解けなかったのかわからん」というレベルなんじゃないでしょうか。

つまりそれらは「12歳で解けたから」すごいという話。

大学入試の問題も、そう。

でも、ある一定ラインより難しい問題はただ年数を重ねても解けるようにはならないわけで、その意味では濱井さんはとてつもなく頑張ったと思う。

 

人間だれしも気にかかるコンプレックスはあると思う。

昔足が遅かった、とか。

泳げなかった、とか。

絵が下手だった、とか。

数学が苦手だった、とか。

それらについて、幾つになっても「リベンジ」することで自分のコンプレックスが無くなって幸せになることは多いので、50であろうが60であろうがチャレンジしたらいいと思う。

だから、濱井さんが「早稲田卒というエンブレム」を手に入れることで自分のコンプレックスが無くなると信じ、9年間頑張ったことそれ自体は本当に素晴らしいと思う。

 

でも、いささか残念に感じる点もある。

それは

・そもそも9「浪」ではない点

・早稲田を出れば一流企業に再就職できると思っていたように「見えてしまう」点

・大学で何を学びたかったのかわからない点

です。

 

一般的に、仮面浪人を経て再受験した方々は浪人を名乗りません。

浪人とは、語源から考えても「どこにも属せない」ことですよね。

「9年かけて念願の早稲田!」ならわかるのですが、それを「9浪」というのは「ビジネス浪人」と言われても仕方ないかもしれませんね。

 

また、先日「ほとんどの会社でエントリーすらさせてもらえなかった」と言ってらしたように記憶しているのですが、長年の社会人経験のある身からすると

ちょっと何言ってるのかわかんない

感じです。

 

これは3つ目の項とも深く関係します。たとえば、濱井さんが社会に出たあと「物理」や「生物」や「法律」や、エトセトラ、そういう「専門的な分野」に興味を持ち、それで大学で学びなおしたい、そしてそれを活かして再就職したいということなら理解を示す会社は多々あったんじゃないかなと思います(それでもさすがに年齢的なハンデはあるでしょうが)。

 

でも、濱井さんって「学歴」が欲しかったんですよね?

そこまで最終学歴にこだわるならなぜ東大を目指さなかったんだろう。9浪で早稲田文学部はインパクトに欠ける気がする。

国立理系も視野に入れて再受験を考えていて、結局理数の点数伸びないから早稲田の教育学部or文学部を目標ににしたんですよね?なんかそれ違くない。

「9浪早稲田教育学部国文学科」が実社会、会社の人事部からどういう評価をされるかを、せっかく数年間は実社会にいらしたのだからそこで情報として手に入れておかれれば良かったのでは…と思います、余計なお世話ですが。

 

「浪人回避大全」に書かれているTips自体は、ほとんど頷けることばかりでした。

ですから、何年かかろうと「〇〇大学」に入れるだけでいい、と考える学生にとっては有益な本だと思います。

 

でも「〇〇卒」だけで「金メダル」になると若者に誤解させかねない部分は頷けないです。東大ですら、3浪以上で入って専門性を身に着けず「東大卒」というだけを売りにして就職戦線に立ち向かってもおそらく門前払いに近いはずです。

 

「9浪はまい」さんは9浪ではなく「社会人の再受験」だと思っていますが、同じように再受験する場合は

・「〇〇を学びたい」という目的がある

・専門性あるいは資格をとりなおしてその分野で仕事をしたい

ケースならば実益があると思いますが、「〇〇卒」という肩書が手に入れば人生リセットできると考えるのは危険だと思っています。

 

そういえば「東大リベンジャーズ」も「東京卍リベンジャーズ」も、「過去に戻ってやり直す」話ですね。

 

幾つになっても「〇〇卒」という属性がなくなるわけではありませんが、

「〇〇卒」というカードが有効な時期は一時期

最終学歴にこだわる気持ちもわかりますが、それを塗り替えるために費やす時間を実社会での経験や資格(=あらたなスキル)取得のために費やすことで、よりハッピーになれるのではないかと思ったりもします。

「リベンジャーズ」と違って、時間は後戻りできませんから。

たぶん、濱井さんは早稲田に入りなおせば18歳からやり直せると思っていたんでしょうし、それは第三者からみるとしんどい感じですね。

 

 

余談ながら。

私はこの仕事に戻るまで、十数年ビジネス界にいました。一度転職をしまして、その際にはたしかに「東大卒」はものすごく助けになりました。でも、それって東大卒業したあと十年ほどしっかり仕事をして実績積み重ねてきたからだと思うんですね。

このブログでも何度も書いてますが、結局学歴って「〇歳時点でそれだけの学力があった」ってだけです。人は「今」を見ていますし、そもそも自分自身も「今」を生きています(「東大リベンジャーズ」の中でマッくんがずっと東大の話をして会社で干されたのはそれが理由ですね(苦笑))。学歴にこだわるより、どんどん新しいスキルを身に着けたほうが人生幸せだと思っています。