とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

低学年から塾に入れることのリスク(1)~「塾ズレ」

中学受験の過熱ぶりはとどまるところを知りません。

驚いたことに、いまや「席取り」のために小1~2からサピックスに入れるご家庭も多く、そのため早々に低学年枠は締め切りになってしまうとか。

でも、ちょっと待ってください。そもそも、サピックスの代表者がインタビューで次のように答えてるんですよ?(苦笑)ご自分のお子さんを低学年からサピに入れようとは一切考えてませんよ?

veryweb.jp

 

今回は「低学年での入塾」のリスクの前に、そもそも「勉強=塾」になってしまうリスクについて書きます。造語ですが、私はそれを「塾ズレ」と呼んでいます。

現在私は、塾との併用3割強、家庭教師のみ(つまり私のみ)の生徒が7割弱ですが、この両者に、如実な差があることに気づきました。「塾の勉強しかしない」子たちの特徴を上げてみることにします。

 

 

1)「習ってません」と平気で言う

塾>>学校のお考えの親御さんあるいは生徒本人は、学校の勉強を馬鹿にする傾向がありますね。でも、学校の勉強には素晴らしい点が一つあります。それは「まずは考えさせる」「解法を先に教えない」ということです。

 

塾の教え方というのは、

・まず解法を教えてしまう

・練習問題を解かせる

という順序です。

塾は効率最優先ですから「ああでもないこうでもないと考えさせる時間」なんかありません。

これ、本当に怖いことだと思いませんか?

塾のやり方に慣れ切ってしまった子たちは、初見の問題(実は「見せ方」が違うだけで、考えれば自分で解ける問題)を与えると、即座に「これ、やり方習ってません」と言います。

何度でも繰り返しますが、「解法を当てはめて答えを出す」のは「考えているうちに入りません」からね?極端に言えばそれはカシオ計算機ですからね?正答して点が高いからって安心しないほうがいいと思います…。ついでに言うと、「小6までアルファだったのにどんどん地滑りする子」は、そういう子が多いです。

一方、塾ナシの子たちは、ヒントすら嫌がります。ヒントを出そうとすると「ちょっと待って、もう少し自分で考える!」と言い、答えにたどり着きます。

 

2)すぐあきらめる=考え抜こうとしない

生きていくために必要な力は「未知の問題に出会ってもあきらめないで考える」力ではないでしょうか?

「わからない問題」に何十分かかろうと何時間かかろうと取り組んで格闘している間にこそ、我々の脳は成長します。

そういう取り組みは、今の受験業界では「捨て問」として完全に否定されています。

塾では一問への制限時間が決められていますから、それに慣れた子は問題を見て「時間がかかりそう」と思うとすぐ「捨て」ます。だって、塾でそう教わっているから。

私は昔から「捨て問」という言葉が大大大嫌いです。もちろん、受験本番では解ける問題から解き、確実に点を取ることは大切です。でもそれは「捨て問は考える必要もない」ということとは似て非なるものです。

捨て問を見抜き要領よく点を取ってきた子は、高校で行き詰ります。これまでたくさんそういう「逆転劇」を見てきました。入試では「捨て問」を見抜き要領よく確実に点を取れたほうが有利です。ですが、受験勉強中に「要領の悪いこだわり」を見せた子は、入学後に伸びて、やすやすと「要領のいい子」を抜いていきました。

 

「教わった解法を要領よく使う」ことに慣れた子は、考えようともせず見た瞬間にあきらめてしまいます。だからこそ、「すぐ教えるコーチはダメコーチ」なのです。

 

mikoto2020.hatenablog.com

 

3)塾は「効率最優先」

「効率」「時間コスパ」という概念は、そもそも「教育」とは相いれないものです。本人が真に成長するためには「時間がかかろうと自分で考え抜く」ことが肝要だからです。でも、そんなことを言っていたら塾の経営は成り立ちません(苦笑)。だから、考えさせる暇も与えず、本人が「考える前に」どんどん「解法」を教え込む。

そもそも「教育」「指導」って、「自分で考えられる力をつける」ことじゃないのかな?そう考えているので、私は自分の生徒にはまずはとことん考えさせます。ですから2時間の間に解ける問題数は少なくなりますが、「考え抜く力」がつけば、あとは自学で身につけることができるからです。

よく聞くたとえ話で、「飢えた人に魚を釣ってあげますか?魚の釣り方を教えますか」というのがありますね。「解法がんがん教え込む」のは「魚を釣ってあげる」ことだと考えています。

このやり方は、効率重視のご家庭とは相性が悪いです(笑)。

ですから、私は仕事を受ける際に最初にご説明しています。「私は、答えは(すぐには)教えませんよ、『解説』はしませんよ」と。たいていのご家庭でご納得いただき、自由に任せていただけているのはありがたい限りです。で、実際、「たくさん」問題を解かせた場合より、「一問でいいので時間をかけて考えさせた」場合のほうが、明らかに生徒の実力は上がっています。この業界、「短時間でたくさん進める」ほうが受けがよかったりしますが、それって「解説屋」になってればできちゃいますからね?生徒のほうも、「先生の解説聞いてれば勉強したことになる」からわからなくても質問しませんからね?そこには一種の「共犯関係」があります。効率しか目に入らないご家庭が陥りがちな罠です。

 

ついでに言うと、難関校突破する子たちというのは、塾で「これはやらなくてもいいよ」と言われた発展問題(サピだとSAPIOとか)こそ、放っておいても面白がって取り組みたがります。塾側も、そういう自主性、時間無制限で難問に取り組む子こそが伸びるとわかってはいるんですよ。言わないだけで。

4)「自分の勉強」ができないことの怖さ

大手塾の中でも、とりわけサピックスでよく聞く悩み、それは「宿題で精いっぱい」「宿題すらも終わらない」「テキストの問題を全部解くなんてありえない」という悩みです。これは「自称」進学校の生徒からもよく聞く話です。

これ、本当に怖いことじゃないでしょうか。

つまり、「自学」の時間がないということですよね。

生徒それぞれ「穴」も得意分野も違います。「自分は今何をやるべきか」を考える余裕もなく、与えられたものをこなそうとし、それでもこなしきれない。

「塾以外の勉強ができない」というのは恐ろしい話です。

それに慣れ切ってしまうと、中学高校進学後も「与えられたもの以外に何かやろう」という子には育ちません。

 

5)では低学年のうちは何をすればいいのか

小4から入塾しても「塾ズレ」してしまうのです。低学年からなら何をかいわんや。

では、低学年のうちは何をすべきか。

・たくさん遊ぶ。子供は遊びからこそ学びますし、人間関係は後々国語力を左右します

・実体験を積む

・「時間無制限」のパズルを解く

詳しくは、また次回書きたいと思います。